学術情報

ストレスと消化管の関係

監修

乾 明夫 教授 鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 社会・行動医学講座行動医学分野
藤宮 峯子 准教授 滋賀医科大学 解剖学講座 生体機能形態学

ストレスとは

“ストレス”という言葉はとても曖昧で、あるときはストレス刺激(stressor)を表す言葉として、またあるときはストレス刺激によって起こる生体反応を表現する言葉として使われています。生体の恒常性維持を妨げる因子をストレス刺激、恒常性維持が崩れる状態をストレスと定義する専門家もいます。適度なストレスはからだにいいといわれていますが、いずれにしても“ストレス”はわれわれの身体に良くないことであるという認識が含まれていることに相違ありません。

ストレス状態が長く続くと(ストレスを感じると)、中枢の視床下部(hypothalamus)の室傍核(paraventricular nucleus, PVN)において副腎皮質刺激ホルモン放出因子(corticotropin-releasing factor, CRF)が放出され、このCRFは下垂体前葉(anterior pituitary)の副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone, ACTH)分泌を活性化します。ACTHは副腎皮質(adrenal cortex)からの糖質コルチコイド(glucocorticoid)分泌を活性化し、ストレスに対して適応するためのさまざまな生体反応を起こします。しかしながらこの状態が長期間続くと、生体に悪影響が出てくると考えられています。これがストレスによる病気の原因とされています。

ストレスと消化管の関係

ストレスにより誘発したCRFはPVNや延髄の孤束核・迷走神経背側核(dorsal vagal complex, DVC)にあるCRF type 2受容体を介して上部消化管(胃・十二指腸)の運動を抑制すると考えられています。
一方、CRFはCRF type 1受容体を介して下部消化管(結腸)の運動亢進を起すと考えられています。その作用機構の中心部位は、PVNとDVCにある内臓運動性核(dorsal vagal motor nucleus, DVMN))です。この副交感神経の興奮は消化管の筋層間神経叢(Auerbach ganglia, myenteric plexus)を刺激し、結果として平滑筋の収縮が起こると考えられています(図1)。これがよく言われています“脳腸相関”です。“脳腸相関”にはこのような脳から腸だけでなく腸から脳への信号伝達もあります。消化管内腔の粘膜細胞に刺激が加わりますと、この信号は迷走神経下神経節(nodose ganglion)を介して延髄孤束核(nucleus tractus solitarius, NTS)へ、また、脊髄後根神経節(dorsal root ganglion)を介して視床、皮質へ伝えられると考えられています(図2)。これが内臓知覚(visceral sensitivity)といわれるものです。この内臓知覚には消化管壁内に存在します内在性知覚ニューロン(intrinsic primary afferent neuron, IPAN)からの信号も関係していると考えられています。

図1. ストレスの影響 脳からの腸管 図2. 腸管からの刺激 腸管から脳

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome, IBS)は、消化器関連の病気の中では病院を訪れる患者の多数を占めるようになっており、病院で受診しない潜在的な患者を含めると成人の5-20%以上と考えられています。最近では子供のIBSの報告例もあります。IBSはガンなどとは違って生死にかかわる重篤な疾病ではないのですが、日々の生活に支障をきたす病気として、また、その患者数が増えてきていることからも、治療法の開発が急がれています。最近では、内臓知覚の過敏が過敏性腸症候群の病態の原因であると考えられるようになってきました。内臓知覚に関与しているとされるIPANの情報伝達にはセロトニン(serotonin, 5-HT)受容体が関与していることが考えられています。

また、ストレスにより分泌されるCRFが誘発する下部消化管運動亢進にもセロトニンが関係しているとされています。ストレスはIBSの病態を悪化させることがわかっており、ストレスと脳腸相関、そしてセロトニン受容体の観点からその治療薬の開発が進んできています。

IBSの診断基準 <Rome III診断基準(Rome III criteria)>

腹痛あるいは腹部不快感が、最近3ヵ月の中の1ヵ月につき少なくとも3日以上を占め下記の2項目以上の特徴を示す。

  1. 排便によって改善する
  2. 排便頻度の変化で始まる
  3. 便形状(外観)の変化で始まる

少なくとも診断6ヵ月以上前に症状が出現し、最近3ヵ月間は基準を満たす必要がある。 腹部不快感とは、腹痛とはいえない不愉快な感覚を指す。病態生理研究や臨床研究では、腹痛あるいは腹部不快感が1週間につき少なくとも2日以上を占めるものが対象として望ましい。

<IBSの分類>

便秘型IBS(IBS-C)

硬便または兎糞状便が便形状の25%以上、かつ、軟便または水様便が便形状の25%未満

下痢型IBS(IBS-D)

軟便または水様便が便形状の25%以上、かつ、硬便または兎糞状便が便形状の25%未満

混合型IBS(IBS-M)

硬便または兎糞状便が便形状の25%以上、かつ、軟便または水様便が便形状の25%以上

分類不能型IBS

便形状の異常が不十分であってIBS-C, IBS-D, IBS-Mのいずれでもない(止瀉薬、下剤を用いないときの糞便で評価)
硬便または兎糞状便;Bristol便形状尺度1、2型
軟便または水様便;Bristol便形状尺度6、7型

<Bristol便形状尺度>

1型 分離した硬い木の実のような便(排便困難を伴う)
2型 硬便が集合したソーセージ状の便
3型 表面にひび割れがあるソーセージ状の便
4型 平滑で柔らかいソーセージ状あるいは蛇状の便
5型 柔らかく割面が鋭い小塊状の便(排便が容易)
6型 ふわふわした不定形の小片便、泥状便
7型 固形物を含まない水様便

尾仲達史 ストレス反応とその脳内機構 日本薬理学雑誌 126:170-173, 2005

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大幸薬品 研究所 安宅 弘司

 

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