学術情報

安全性

大幸薬品で使用している木クレオソートは、医薬品原料として自社グループ会社で製造し、自主規格で管理しています。この木クレオソートについては一般用医薬品として安全性が認められていますが、さらなる安全性を確認するために、大幸薬品ではGLP(Good Laboratory Practice)基準に基づいた発がん性試験を実施し発がん性が認められないことを確認しています。また、GCP(Good Clinical Practice)基準に基づき、人を対象とした第一相臨床試験も実施し、木クレオソートは忍容性の高い医薬品であることを確認しました。

※忍容性とは、明白な有害作用が被験者にとってどれだけ耐えうるかの程度をいいます。

発がん性試験

非臨床試験の実施基準 (Good Laboratory Practice, GLP)に基づいたラットでの発がん性試験を実施しました。木クレオソートを20, 50 及び200 mg/kg/dayの3群に分けて96~103週間ラットに経口投与したところ、発がん性は認められませんでした1)

第一相臨床試験

単回投与

最新の医薬品の臨床試験実施基準 (Good Clinical Practice, GCP)で健康人を対象に第一相試験を実施しました。健康な男女(合計40例)を対象に、木クレオソートを45,90,135,180,225 mg単回投与を実施したところ、忍容性が高いことが示されました2)
臨床用量(133 mg)の木クレオソートを経口投与した健常人では、木クレオソートの成分である グアヤコール(guaiacol)、クレオソール(creosol)、p-クレゾール(p-cresol)及びフェノール(phenol)の血中濃度は15分後より上昇を始め、30分後に最高血中濃度に到達しました。半減期は0.8時間(p-cresol)-2.7時間(phenol)の範囲で、24時間以内に、尿中にグアヤコール(guaiacol)45 ± 36 %、クレオソール(creosol)74 ± 36 %、p-クレゾール(p-cresol)103 ± 51 %及びフェノール(phenol)75 ± 35 % が排泄されました3)

健康な成人男子における木クレオソート主要成分の血中濃度

健康な成人男子における木クレオソート主要成分の血中濃度

木クレオソート経口投与後のグアヤコール血中濃度

木クレオソート経口投与後のグアヤコール血中濃度

引用文献
1) Kuge T., et al. Intern J Toxicol 20, 297-305 (2001).
2) Kuge T., et al. Pharmacotherapy 23, 1391-1400 (2003).
3) Ogata N., et al. Pharmacology 51, 195-204 (1995).

木クレオソートに含まれるフェノールについて

木クレオソートは、一般用医薬品の胃腸薬承認基準でその有効性と安全性が承認された薬剤です。木クレオソートには主要薬効成分の1つとして約10%のフェノールが含まれています。フェノールは、タンパク質変性により腐食性があり、皮膚や目に接触すると障害をおこす恐れがあります。木クレオソートを主成分とする正露丸はフェノールを含有するために、長時間皮膚や粘膜に付着しないよう注意する必要があります。誤って皮膚などに付着した場合は、すぐさま洗い流すようにしてください。
経口投与されたフェノールの安全性に関しては、その用量により中毒量が報告されています。毒性発現濃度は、正露丸臨床用量におけるフェノール含有量の約1000倍であり、常用量の正露丸を服用した際、健常人で中毒症状がでることはありません。1-3) また、フェノールの催奇形性、変異原性、発がん性が認められないことも報告されています。注4-6)
フェノールは生活環境中に存在しており、飲料水にも含まれています。オランダの飲料水には0.001-0.009 mg/Lのフェノールが含まれています1)。健康なヒトの血中に、常時フェノールが存在していることも報告されています2)。この内因性のフェノールの起源は食物として摂取した蛋白質(アミノ酸)の腸内細菌の代謝により生じたものと考えられています2)

注1) 正露丸中のフェノール量

正露丸1回の内服における木クレオソート摂取量は133 mgであり、1回に摂取するフェノールの量は13.3 mg(フェノール含有率は約10 %)となり、ヒトの体重を65 kgとするとこの摂取量は0.20 mg/kg bw(body weight )となります。1日3回服用した場合では0.61 mg/kg bw/dayとなります。この値は、フェノールの急性毒性試験によるLD50値(50% lethal dose、50%致死量、445-520 mg/kg bw(ラット))と比較すると2000倍低い値です。また、慢性毒性試験によるNOAEL値(no-observed-adverse-effect level、最大無毒性量、12 mg/kg bw/day(ラット))やLOAEL値(lowest-observed-adverse-effect level、最小毒性量、200 mg/kg bw/day(ラット))と比較しても60-1000倍低い値です。

正露丸中のフェノール量とフェノールのLD50、NOAEL、LOAELの比較

正露丸中のフェノール量とフェノールのLD50、NOAEL、LOAELの比較

注2) フェノールの一回経口致死量に関しては15 g

単回経口投与におけるフェノールの毒性に関しては一般にLD50 (50% lethal dose、50%致死量)で表現され、マウスにおいては300 mg/kg bw 3)、ラットでは445-520 mg/kg bw 4)、兎では400-600 mg/kg bw 5)が報告されています。ヒトにおける一回経口致死量に関しては15 g 6)と 4.8 g 7)が報告されていますが、57 gのフェノールを経口摂取したヒトにおいて救命された症例も報告されています8)。ヒトの体重を65kgとすると、これらの値はそれぞれ、231 mg/kg bw、74 mg/kg bw、877 mg/kg bw、となります。
以上の結果をまとめると、ヒトを含む動物の急性致死レベルはおよそ 400 mg/kg bwと考えられます。

注3) フェノールの亜急性毒性と慢性毒性;フェノールの最小毒性量は200 mg/kg bw/day

メスのFischer 系ラットに12 mg/kg bw/dayのフェノールを14日間毎日投与した結果、組織への障害は全く認められませんでした9)。即ち、ラットに於ける14日間亜急性NOAEL(no-observed-adverse-effect level、最大無毒性量)は12 mg/kg bw/dayとなります。ラットにフェノールを含む水を12ヶ月間毎日飲ませた結果、200 mg/kg bw/day 以上の群で初めて体重減少が見られましたが、160 mg/kg bw/dayの群では変化が見られませんでした。このことから、LOAEL(lowest-observed-adverse-effect level、最小毒性量)は200 mg/kg bw/dayとなります 6)

注4) フェノールの催奇形性試験;フェノールによる催奇形性は認められない

妊娠11日目のメスSprague-Dawley系ラットに333 mg/kg bw のフェノールを単回投与した結果、母体および生まれた子ラットに影響はありませんでした10)。Sprague-Dawley系ラットに120 mg/kg bw/dayのフェノールを妊娠期間中の第6から第15日目の間毎日経口投与した結果、生まれた子ラットに奇形は無かったと報告されています11)

注5) フェノールの変異原性試験;フェノールによる変異原性は認められない

Salmonella typhimurium を用いた変異原性試験において、代謝活性化を入れても入れなくてもフェノールに変異原性はみられませんでした12-14)。ヒトのリンパ球における娘クロマチッド交換試験(sister chromatid exchage test, SCE test)を用いた変異原性試験においてもフェノールに変異原性は認められませんでした15)。マウスにおける骨髄細胞微核試験(micronucleus test)においてもフェノールに変異原性はみられませんでした16)。一般に、遺伝子操作におけるDNA精製段階において「フェノール処理」と呼ばれる操作を行いDNA標品中に混在する蛋白を除きますが、この時DNAがフェノールにより化学変化を生ずるという報告はありません17)。このことはフェノールがDNAに対し変異を生じさせないことの一つの傍証であると考えられます。

注6) 発がん性試験;フェノールによる発がん性は認められない

米国EPA(Environmental Protection Agency)はフェノールをGroup D に分類している18)。Group Dとは「発がん性がありと評価するにはデータが不十分である。」というものです18)。米国NCI(National Cancer Institute)において行われた実験ではB6C3F1マウスにおいて飲料水に 5 g/L(660 mg/kg bw /day))のフェノールを入れ、103週間毎日経口投与した結果、対照群(フェノールなし)と比較して、悪性腫瘍の発生頻度に差は無かったと報告しています19)。同様の結果はFisher-344系のラットにおいて、5 g/L(585 mg/kg bw /day (♂)、630 mg/kg bw /day (♀))のフェノールを含む飲料水を103週間連続投与した実験においても「フェノールに発がん性は無し」という結果が得られています19)

引用文献

1)

RIVM (1986) [Criteria Document: Phenol]. Bilthoven, The Netherlands, National Institute of Public Health and the Environment (Document No. 738513002). (in Dutch)

2)

Ogata N, Matsushima N, Shibata T (1995) Pharmacokinetics of wood creosote: glucuronic acid and sulfate conjugation of phenolic compounds. Pharmacology 51, 195-204

3)

Von Oettingen WF (1949) Phenol and its derivatives. The relation between their chemical constitution and their effect on the organisms. Washington DC, Nationa Institutes of Health Bulletin.

4)

Thompson ED, Gibson DP (1984) A method for determining the maximum tolerated dose for acute in vivo cytogenetic studies. Food Chem Toxicol 22, 665-676.

5)

Deichmann WB, Witherup S (1944) Phenol studies ─ VI: The acute and comparative toxicity of phenol and o-, m-, and p-cresols for experimantal animals. J Pharmacol Exp Ther 80, 233-240.

6)

Windholz M (1983) The Merck Index, 1043, Merck & Co., Inc., Rahway, NJ, USA.

7)

Anderson W. (1869) Fatal misadventure with carbolic acid. Lancet 1, 179.

8)

Bennett IL Jr, James DF, Golden A (1950) Severe acidosis due to phenol poisoning; report of two cases. Ann Int Med 32, 324-327.

9)

Schlicht MP, Moser VP, Sumrell BM, Berman E, MacPhail RC (1992) Systematic and neurotoxic effects of acute and repeated phenol administration. Toxicologist 12, 274.

10)

Kavlock RJ (1990) Structure-activity relationships in the developmental toxicity of substituted phenols: in vivo effects. Teratology 41, 43-59

11)

Jones-Price C, Kimmel CA, Ledoux TA, Reel JR, Fisher PW, Langhoff-Paschke L, Marr MC (1983) Final study report ─ Teratologic evaluation of phenol (CAS No. 108-95-2) in CD rats (NTP Study No. TER-81-104). Springfield, Virginia, National Technical Information Service (NTIS/PB83-247726).

12)

Pool BL, Lin PZ (1982) Mutagenicity testing in the Salmonella typhimurium assay of phenolic compounds and phenolic fractions obtained from smokehouse smoke condensates. Food Chem Toxicol 20, 383-391.

13)

Gilbert P, Rondelet J, Poncelet F, Mercier M (1980) Mutagenicity of p-nitrosophenol. Food Cosmet Toxicol 18, 523-525.

14)

Epler JL, Rao TK, Guerin MR (1979) Evaluation of feasibility of mutagenic testing of shale oil products and effluents. Environ Health Perspect 30, 179-184.

15)

Jansson T, Curvall M, Hedin A, Enzell CR (1986) In vitro studies of biological effects of cigarette smoke condensate. II. Induction of sister-chromatid exchanges in human lymphocytes by weakly acidic, semivolatile constituents. Mutat Res 169, 129-139.

16)

Barale R, Marrazzini A, Betti C, Vangelisti V, Loprieno N, Barrai I (1990) Genotoxicity of two metabolites of benzene: phenol and hydroquinone show strong synergistic effects in vivo. Mutat Res 244, 15-20.

17)

Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, Cold Spring Harbor University Press, Cold Spring Harbor, NY, USA.

18)

Bruce RM, Santodonato J, Neal MW (1987) Summary review of the health effects associated with phenol. Toxicol Ind Health 3, 535-568.

19)

National Cancer Institute (1980) Bioassay of phenol for possible caricinogenicity (CAS No. 108-95-2). Bethesda, Maryland, US Department of Health Services, National Cancer Institute, Carcinogenesis Technical Report Series No. 203, NTP No. 80-15, 1-123

主要文献

有効性1.
分泌性下痢に対する効果
Ataka K., et al. Res Commun Mol Pathol Pharmacol 93, 219-224 (1996).
Ogata N.,Shibata T. Pharmacology 62, 181-187 (2001).
Kuge T., et al. Biol Pharm Bull 24, 623-627 (2001).
Ogata N., Shibata T. Pharmacology 72, 247-253 (2004).
Greenwood-Van Meerveld B., et al. Biol Pharm Bull 23, 952-956 (2000).
有効性2.
大腸の蠕動運動亢進に対する正常化作用
Ogata N., et al. Pharmacology 59, 212-220 (1999).
Ataka K., et al. Auton Neurosci 133, 136-145 (2007).
有効性3.
ストレスによる下痢に対する効果
Ataka K., et al. Dig Dis Sci, 47, 1303-1309 (2003).
Ataka K., et al. Auton Neurosci 133, 136-145 (2007).
安全性 Kuge T., et al. Intern J Toxicol 20, 297-305 (2001).
Kuge T., et al. Pharmacotherapy 23, 1391-1400 (2003).
Ogata N., et al. Pharmacology 51, 195-204 (1995).
<参考> 
腹痛に対する働き
(臨床治験での塩酸ロペラミドとの比較)
Kuge T., et al. Clinical Therapeutics 26, 1644-1651 (2004).
 

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