健康情報局
2025年6月18日更新
寄生虫とは、人や動物の表面や体内にとりついて(寄生して)食物をせしめる生物のことをいいます。寄生される人や動物を宿主といい、寄生虫は宿主なしでは生きていけません。そして、寄生虫は宿主に害を及ぼす場合があり、この感染症を「寄生虫症」といいます。
第2次世界大戦後の日本では多くの人(60%前後が回虫(かいちゅう)、5%前後が鉤虫(こうちゅう)に感染)が寄生虫に感染していました。その後、農業での化学肥料の導入、下水道の整備や水洗便所の普及などの衛生的な生活、検査や駆虫薬などの対策によって、感染者は非常に少なくなり、今では寄生虫を知らない人も増えています。
最近、グルメブームによる生の食品や輸入食品・自然食品の摂取、海外旅行の増加、ペットブーム、海外からの輸入増加などによって、寄生虫症が増えてきているといわれています。
食あたりとは、「食物の毒に中(あた)る」ということで、医学的には食中毒といいます
近年、寄生虫のアニサキスが食中毒発生件数の原因の第1位となっており、厚生労働省が公表している食中毒統計では5割近くを占めています。アニサキスは魚に寄生するものですが、日本人は魚を生で食べる習慣があるため、他の国の人に比べて、感染率が高くなっています。
また、最近では、太平洋側に多かった食中毒になりやすいタイプのアニサキスが、日本海側にも増えており、昨今の地球温暖化の影響と推測されています。
アニサキスは本来、成虫はクジラやイルカなどに寄生し、幼虫はサバやイカなどに寄生しています。
アニサキス幼虫の体長は20-35mm、体幅は0.4-0.6mmの線虫で、寄生している魚介類が死亡し、時間が経過すると内臓から筋肉に移動することが知られています。
ヒトがこれら魚介類を生で食べると幼虫が胃壁(胃アニサキス症)や腸壁(腸アニサキス症)に穿入し、生魚を食べた後、1時間から数日で激しい腹痛・吐き気(胃アニサキス症)や激しい下腹部痛(腸アニサキス症)をおこします。一般的な治療方法は、医療機関で内視鏡的に生検鉗子により摘出します。
食中毒の原因となるアニサキス幼虫は、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、ヒラメ、マグロ、イカなどの魚介類に寄生します。
一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません。
詳しくは
厚生労働省のホームページ「アニサキスによる食中毒について」(外部サイトへ) をご覧ください。
人につく寄生虫は、世界では約200種類、日本では約100種類記録されており、原虫と蠕虫(ぜんちゅう)の2つに分類されます。その他に体表に寄生したり感染を媒介するノミ、シラミ、ダニなどの動物(衛生動物)も寄生虫に含まれます。
原虫は1つの細胞(単細胞)からできていて、非常に小さく顕微鏡でないと見ることができません。
一方、蠕虫は多くの細胞(多細胞)からできていて、人の眼で見ることができる寄生虫です。
表の内容は横スクロールでご確認ください
分類 | 特徴 | ||
---|---|---|---|
原虫 | 根足虫類 | 形を自由に変えて動くアメーバ | 赤痢アメーバ、多食アメーバ |
鞭毛虫類 | 運動するための長い毛 (鞭毛)をもつ | トリパノソーマ、ランブル鞭毛虫、膣トリコモナス | |
胞子虫類 | 運動機能はなく、分裂による無性生殖や有性生殖で胞子を形成する | マラリア、クリプトスポリジウム、肉胞子虫、トキソプラズマ | |
有毛虫類 | 細かい毛(繊毛)をもつ | 大腸バランチジウム、ヒトブラストシスチス | |
蠕虫 | 線虫類 | 線状、円柱状で細長 | 回虫 :回虫(ヒト回虫)、ブタ回虫、イヌ回虫、ネコ回虫、アニサキス |
蟯虫 | |||
円形線虫:ズビニ鉤虫、アメリカ鉤虫、広東住血線虫 | |||
桿線虫:糞線虫 | |||
旋尾線虫 :有棘顎口虫、剛棘顎口虫、ドロレス顎口虫、日本顎口虫、東洋眼虫、旋尾線虫、バンクロフト糸状虫、イヌ糸状虫 | |||
鞭虫、旋毛虫 | |||
吸虫類 | 体が扁平で、2つの吸盤をもつ | プラギオルキス:肝吸虫、横川吸虫、ウェステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫 棘口吸虫:浅田棘口吸虫、肝蛭、巨大肝蛭 有襞吸虫:日本住血吸虫、マンソン住血吸虫、ビルハルツ、住血吸虫、ムクドリ住血吸虫 |
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条虫類 | 体が扁平で長く、種類によって3個から数千個の節にわかれている一般にはサナダ虫といわれる | 擬葉目:日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、大複殖門条虫、マンソン裂頭条虫 円葉目:無鉤条虫、有鉤条虫、多包条虫(エキノコックス)、単包条虫(エキノコックス) |
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その他 | 鉤頭虫類、鉄線虫類 | ||
衛生動物 | 人の体表に寄生、感染を媒介、毒物によって危害を及ぼす | カニ、ダニ、蚊、ノミ、シラミ、ブユ、ハエ |
病原体となる寄生虫によって、感染経路や感染部位はさまざまです。
最も多いのは口から感染する経口感染です。生の魚介類や肉類、生野菜の摂取で起こります。飲料水から原虫に感染することもあります。また、ペットに寄生している寄生虫から感染することもあります。
昆虫に刺されて感染する刺咬感染は、蚊、ハエ、ノミなどが媒介します。ハマダラカによるマラリア感染はサハラ砂漠以南のアフリカでは多くの人が感染しています。
皮膚から直接感染する経皮感染もあり、川や湖、土壌を裸足で歩くことで皮膚から幼虫が侵入してくる場合です。
性行為で感染する膣トリコモナス、ケジラミなどもあります。ケジラミは、入浴や毛布やタオルなどを介して、間接的に感染することもあります。
“寄生虫”を専門に扱った世界で唯一の研究博物館 目黒寄生虫館では、さまざまな寄生虫の標本が展示されています。寄生虫のすごさを眼で見て、学ぶことができます。
生鮮魚介類や肉類、野菜などには、さまざまな寄生虫がいることがあります。食べても健康に影響がないものもありますが、中には腹痛や下痢、嘔吐などの症状をおこすものや、寄生虫によっては症状が重篤になる場合があります。
寄生虫の卵がついている可能性があるので、生で食べる野菜は、調理前に流水でよく洗う
獣肉、食肉、川魚の生食はしない。(イノシシ、クマ、は虫類など)湧水などの生水は飲まない。
魚介類、肉類は十分に冷凍する。
(多くの寄生虫は、-20℃以下で48時間以上冷凍することで死滅するといわれていますが、寄生虫の種類によっては長期間生存するものもあるので注意が必要)
魚介類、肉類は、中心部まで十分に加熱する
寄生虫の卵などが手指や調理器具について口に入ることがあります。生肉・魚介類・野菜などにさわった後は、よく手を洗いましょう。
マラリア発生地域に渡航する際は、蚊の駆除対策と蚊に刺されないようにする対策が必要です。(蚊帳、殺虫剤、虫よけスプレー)
マラリア予防薬の内服が有効ですので、渡航前に医師に相談しましょう