二酸化塩素の安全性と有用性について
二酸化塩素とは
二酸化塩素は、高濃度ではオレンジ色~黄色で空気より重い気体(ガス)として存在し、塩素に似た刺激臭を有します。二酸化塩素はラジカルの1種であり、強い酸化力 をもつことから、ウイルス除去、除菌、消臭、抗カビ等のはたらきを有することが知られています。
また、二酸化塩素は水に溶けやすく、二酸化塩素溶存液としても除菌等に使用されています。
様々な分野で使用されている二酸化塩素
二酸化塩素は日本や米国で水道水の消毒や、小麦粉漂白処理として食品添加物での使用が認められています 1, 2, 3, 4)。
中国ではCOVID-19対策の消毒剤として、以下の用途が認められました(2020年2月通知) 5)。
水(飲用水、病院汚水)、物体表面、厨房用具、食品加工用具および設備、果物と野菜、医療器具(内視鏡を含む)および空気の消毒
ただし、日本では医薬品・医薬部外品の消毒剤としては未承認です。
- 1) FDA 21CFR§173.300、21CFR§137.105、21CFR§137.200、21CFR§165.110、7CFR§205.601、7CFR§205.603、7CFR§205.605
- 2) EPA National Primary Drinking Water Regulations
- 3) 水道施設の技術的基準を定める省令
- 4) 厚生省告示第370号 食品、添加物等の規格基準
- 5) 国家卫生健康委办公厅关于印发消毒剂使用指南的通知 国卫办监督函〔2020〕147号 消毒剂使用指南2020年2月
二酸化塩素の安全性
二酸化塩素ガスおよび二酸化塩素ガス溶存液で、以下に関する安全性が検証されています。
【二酸化塩素ガス】
二酸化塩素ガスは、米国労働安全衛生局(U.S.OSHA)で労働安全衛生の観点から、二酸化塩素の吸入における許容暴露濃度を8時間加重平均値(PEL-TWA)で0.1 ppm と定められています 6)。
さらに、大幸薬品は、動物試験により以下の安全性の評価を行っています。
慢性毒性 7) | 慢性毒性 7) | 反復投与毒性 8) | |
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試験 機関 |
ハムリー株式会社 | ハムリー株式会社 | ハムリー株式会社 |
試験 概要 |
二酸化塩素ガス 平均0.05 ppmをラットに6ヶ月間連続して全身暴露させた | 二酸化塩素ガス 平均0.1 ppmをラットに6ヶ月間連続して全身暴露させた | 二酸化塩素ガス 平均1 ppmをラットに1日5時間、週5日間、10週間全身暴露させた |
結果 | 体重、生化学、血液学、剖検、臓器重量、病理組織学的検査に異常なし | 体重、生化学、血液学、剖検、臓器重量、病理組織学的検査に異常なし | 体重、生化学、血液学、剖検、臓器重量、病理組織学的検査に異常なし |
【二酸化塩素ガス溶存液】
水道法では、水道水の二酸化塩素の水質管理目標値を0.6 mg/L以下に定めており、また、食品安全委員会では、二酸化塩素の清涼飲料水における耐容一日摂取量(TDI)を0.029 mg/kg体重/日(亜塩素酸イオンとして)と定めています 3,9)。日本二酸化塩素工業会では、二酸化塩素(液剤)の暫定耐容一日摂取量(暫定TDI)を0.029 mg/kg体重/日(亜塩素酸イオンとして)と定めています 10)。
さらに、大幸薬品は、以下の動物試験により安全性の評価を行っています。
急性経口毒性 | 亜急性経口毒性 | 慢性経口毒性 | |
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試験 機関 |
畜産生物科学安全研究所 | 畜産生物科学安全研究所 | 畜産生物科学安全研究所 |
試験 概要 |
ラット OECD TG 423に準拠[投与量は5、50、300および2000 mg/kgに固定し、3匹ずつ順次投与] | ラット 動物用医薬品試験法ガイドラインに準拠[1群雌雄各5匹、雌雄各4用量群(100、300、 1000、3000 mg/kg)と対照の2群(精製水、プラセボ)の計6群を設定] | ラット 動物用医薬品試験法ガイドラインに準拠[1群雌雄各10匹、雌雄各3用量(40、200、1000 mg/kg)と対照の2群(精製水、プラセボ)の計5群を設定] |
結果 | 2000 mg/kgの投与で死亡なし (5000 mg/kgの投与でも死亡なし) したがって、致死量は5000 mg/kg以上と推定 |
無影響量(NOEL):雄 300 mg/kg/day、雌 300 mg/kg/day 無毒性量(NOAEL):雄 1000 mg/kg/day、雌 300 mg/kg/day |
無影響量(NOEL):雄 200 mg/kg/day、雌 200 mg/kg/day 無毒性量(NOAEL):雄 200 mg/kg/day、雌 200 mg/kg/day |
急性経皮毒性 | 皮膚感作性試験 | 皮膚刺激性試験 | |
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試験 機関 |
畜産生物科学安全研究所 | 畜産生物科学安全研究所 | 畜産生物科学安全研究所 |
試験 概要 |
ラット OECD TG 402に準拠[2000 mg/kgの1用量およびプラセボ対照の2群による限度試験] | モルモット OECD TG 406に準拠[Guinea Pig Maximization test] | ウサギ OECD TG 404に準拠[除毛した背部皮膚に塗布適用(実際の適用濃度)し、皮膚反応を観察] |
結果 | 2000 mg/kg群で死亡および一般状態の変化は見られず したがって、致死量は2000 mg/kg以上と推定 |
皮膚感作性は有しない | 有害性は認められない、又は有害性は極めて低い |
眼刺激性試験 | 催奇形性試験 | 催奇形性試験 | |
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試験 機関 |
畜産生物科学安全研究所 | 畜産生物科学安全研究所 | 畜産生物科学安全研究所 |
試験 概要 |
ウサギ OECD TG 405に準拠[結膜嚢内に適用(実際の適用濃度)し、眼刺激性反応を観察] | ラット OECD TG 414に準拠[1群25匹の雌で、3用量群(40、200、1000 mg/kg)と対照の2群(精製水、プラセボ)の計5群を設定] | ウサギ 動物用医薬品試験法ガイドラインに準拠[1群12匹の雌で、3用量群(40、200、1000 mg/kg)と対照の2群(精製水、プラセボ)の計5群を設定] |
結果 | 有害性は認められない、又は有害性は極めて低い | 母動物および胎児に対する無毒性量(NOAEL):ともに1000 mg/kg/day以上 | 母動物および胎児に対する無毒性量(NOAEL):ともに1000 mg/kg/day以上 |
- 6) Occupational Health Guideline for Chlorine Dioxide:U.S. Department of Labor Occupational Safety and Health Administration (1978)
- 7) Akamatsu A., et al. J Occup Med Toxicol 7:2, (2012).
- 8) Ogata N., et al. J Drug Metab Toxicol 4(2), (2013).
- 9) 食品安全委員会化学物質・汚染物質専門調査会、清涼飲料水評価書 二酸化塩素(2008)
- 10) 日本二酸化塩素工業会,二酸化塩素の自主運営基準設定のための評価について(2013)
空間中の二酸化塩素ガスの安全性と有用性
二酸化塩素ガス濃度 |
安全性 | 有用性 | |
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0.01 ppm | 室内濃度指針値(人がその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値) 11) | 浮遊ウイルス99%以上不活化を確認 13) | |
浮遊細菌99%以上不活化を確認 13) | |||
付着細菌99%以上不活化を確認 14) | |||
ヒトのインフルエンザ様疾患に対する予防効果を確認 15) | |||
0.02 ppm | |||
付着ウイルス99%以上不活化を確認 16) | |||
蚊の忌避を確認 17) | |||
0.03 ppm | カビの生育抑制を確認 18) | ||
マウスのインフルエンザ感染抑制を確認 19) | |||
0.05 ppm | iPS細胞への6ヶ月間暴露で、細胞増殖能、細胞密度や形態、未分化性の維持、細胞死、細胞老化、三胚葉への分化に影響が認められない値 12) | ||
0.1 ppm | 労働環境での許容暴露濃度 8 時間加重平均値(PEL-TWA) 6) | ||
1 ppm | ラットにおける最大無毒性量(NOAEL) 8) |
- 11) 日本二酸化塩素工業会,二酸化塩素の自主運営基準設定のための評価について(2014)
- 12) 第19回日本再生医療学会(2020)大阪大学空間環境感染制御学共同研究講座発表
- 13) Ogata N., et al. Parmacology 97, 301-306 (2016).
- 無人の 6畳相当(25㎥)閉鎖空間で二酸化塩素0.01 ppmにより特定の浮遊ウイルスを120分間、特定の浮遊菌を60分間で99%以上除去することを確認。
- 14) Morino H., et al. BMC Res Notes 13:69, (2020).
- 無人の 1㎥閉鎖空間で二酸化塩素0.01 ppmにより特定の付着細菌を120分間で99.99%以上除去することを確認。
- 15) 三村敬司ら 日本環境感染学会誌 25(5), 277-280 (2010).
- 2つの建物に低濃度二酸化塩素放出薬介入群と非介入群を設置し、二酸化塩素放出薬(二酸化塩素0.01-0.02 ppm)の介入で勤務者のインフルエンザ様疾患の患者数の有意な減少を認めた。
- 16) Morino H., et al. YAKUGAKU ZASSHI 133(9), 1017-1022 (2013).
- 無人の 13.5L閉鎖空間で二酸化塩素0.02 ppmにより特定の付着ウイルスを5時間で99%以上除去することを確認。
- 17) Matsuoka H. and Ogata N. Med Entomol Zool 64(4), 203-207 (2013).
- 閉鎖した箱で二酸化塩素0.02-0.03 ppmにより3種類の蚊の忌避作用を確認。
- 18) 森野博文ら、日本防菌防黴学会第43回年次大会(東京、2016年)
- 無人の20L閉鎖空間で二酸化塩素0.03 ppmにより特定の真菌の72時間後の成長抑制を確認。
- 19) Ogata N. and Shibata T. J Gen Virol 89, 60-67 (2008).
- ケージ内のマウスにインフルエンザA型ウイルスをエアロゾル感染させた時、二酸化塩素0.03 ppmによりマウスのインフルエンザウイルス感染の抑制効果を確認。
※ 原著論文は、第三者の評価により掲載された査読付き論文です。