社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

裁判員ストレス障害裁判

2014年10月 7日

今回は、裁判員裁判に参加したことにより、ASD(急性ストレス障害)になったとして国を訴えた裁判について、書いていきます。

この裁判は、ある強盗殺人事件において裁判員になった原告が、この裁判の審理中、殺害現場のカラー写真を見たり、被害者が助けを求める119番通報の内容が録音された音声を聞いたりしたことによりASD(急性ストレス障害)を発症したとして、国に対し、200万円の損害賠償を求め、福島地裁に提訴したものです。

報道によれば、原告は、裁判員になった裁判の初日から嘔吐し、その後も不眠などの体調不良に悩まされたそうです。また、仕事も長期間休まざるを得なくなり、その結果、勤務先からパートの契約を打ち切られたそうです。

この裁判では、原告側が、裁判員制度により裁判員に参加することは、憲法18条が禁止している「意に反する苦役」にあたると主張したため、裁判員制度の違憲性も争点になりました。

(ちなみに、日本において、徴兵制がない直接的な理由は、憲法18条が「意に反する苦役」を禁止しているからです。)

この原告の訴えに対し、福島地裁は、その訴えを退けました。

報道によれば、裁判所は、裁判員裁判の参加とASDとの因果関係は認めたものの、裁判員を辞退することが認められており、精神的な負担軽減策は図られていることや裁判員になったことによる被害については国家公務員災害補償法の対象になること等をあげ、今回原告が被った被害は、裁判員制度により課される負担が合理的な範囲を超えているとはいえないとして、裁判員裁判は憲法18条に違反しないと結論付けたそうです。

その他、原告は、裁判員制度は、憲法22条1項の職業選択の自由に違反する、同法13条の個人の尊厳にも反する等も主張していましたが、裁判所はいずれも退けたようです。

裁判員制度の違憲性については、すでに最高裁により合憲であるとの判断が出ており、今回の判断はそれに沿った判断でした。

そういった意味では、そもそもこの裁判自体、勝訴に持っていくのは難しい裁判であったと思いますが、今回の原告の訴えを受け、本訴訟提起後は、裁判員に告知してから遺体写真を見せる、現場の写真をカラーではなく白黒にする、ないしはイラストに切り替える等、運用により裁判員の負担軽減策が図られているようです。

ただ、裁判員候補として呼び出された場合、正当な理由なくそれに応じなければ、10万円以下の過料に処せられるとされており(裁判所からの呼出状にもその旨が記載されているようです)、原告としては、一度引き受けた以上、辞退はできないのではないかと思い、体調不良にもかかわらず裁判員裁判に参加されたものと思われます。

この事件では、裁判官や裁判所の職員の方も、原告の体調不良に気づき、辞退を申し出ることができること等を説明することが求められたのではないかと思います。


ところで、裁判員制度については、テレビドラマでも、殺人事件の刑事裁判シーンでは、裁判員裁判により行われるようになるなど、相当定着した感があります。

ただ、最も問題になると予想されるのが、死刑を含む重罪事件を裁判員裁判の対象にしている関係で、無実の人に有罪判決(場合によっては死刑判決)を下してしまう可能性もないわけではないことです。

こうなった場合、どうやってその裁判に関与した裁判員をケアするのでしょうか(おそらく完全にケアするのは無理だと思います)。

このような事態にならないためにも、誤判を防ぐことが非常に重要ですが、今後も状況証拠しか存在しない事件もきっとあるでしょう。

そうなれば、頼りになるのは被疑者の供述ということになりますが、その被疑者の供述がもとで誤判することのないよう、最近、裁判員裁判対象事件については被疑者に対する全ての取り調べを録音・録画することが、法務大臣の諮問機関にて決定されました。


今後も、無実の人を罰し、真犯人を野に放つことのないよう、また裁判員に無実の人を処罰してしまった、死刑判決を下してしまったという重荷を背負わせないためにも、裁判官、検察官、弁護士法曹三者は、これまで以上の真剣な取り組みが必要になると思われます。

法曹の責任は重いです。

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