社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

無戸籍者問題

2014年9月16日

今回は、「無戸籍者問題」について、書いていきます。

突然ですが、この国で戸籍がない人がいることをご存知でしょうか。

ある報道によれば、日本で戸籍がない人は1万人を超えたとの推計もあるそうです。

ここでまず、そもそも戸籍がない場合、日本で生活をするのにどのような不利益があるのか、整理したいと思います。

まず戸籍がない場合、住民票が作成されません。

そうすると、住民票の提出が要求される自動車の運転免許証や健康保険証を作成することができず、また就職、銀行口座の開設、携帯電話利用契約や不動産の契約(売買、賃貸借)等ができなくなります。

また、戸籍がなければ、選挙権を行使することができません。

上記は主に成人した場合の話で、親とともに生活し、親の監護を受けている間は上記の不利益もさほど影響はないかもしれませんが、進学に影響する可能性があります。

以上の通り、現在の日本で戸籍がないことは、非常に不利かつ不便なのですが、それではなぜこのような「無戸籍者」が存在するのでしょうか。

この点、特に理由はないが親が出生届を出さなかった、出産費用を抑えるために自宅で出産した等もレアケースとしてはありますが、主な原因は、民法の「嫡出推定制度」にあると言われています。

これは本ブログでも複数回触れた言葉で、婚姻届を提出した夫婦間において、婚姻中に妊娠してできた子は、その夫の子であると推定する制度です。

また、婚姻届提出前に妻が妊娠した場合でも、婚姻届を提出から200日経過後に出産すれば、その子は夫の子であるとの推定を受けるとともに、離婚した場合でも、離婚後300日以内に生まれた子は、元夫の子と推定されます。

この「離婚後300日以内に生まれた子は元夫の子と推定する」とされていることが「無戸籍者」を生じさせる主な原因となっているのです。

つまり、夫婦関係が破たんした後、妻が夫以外の別の男性との間に子をもうけた場合、夫婦関係破たん後からは300日経過しているものの、離婚後からは300日以内にその子が産まれた場合、その子は法律上は元夫の子となってしまいます。

この場合、母親としては子の出生届を出したいところですが、そうするとその子は元夫の子として元夫の戸籍に記録されるため、そのような事態を避けるため出生届を提出せず、その子は無戸籍者となってしまうのです。

またこのようなケースもあります。

夫からの暴力から逃れたい一心で、妻が離婚成立前に夫と同居していた家から出た後、別の男性と知り合いその人との間に子供ができた場合、夫との間に離婚が成立していないため、血縁上は夫との別居後知り合った男性の子であるにもかかわらず、嫡出推定制度により、法律上は暴力をふるっていた夫の子とされ、夫の戸籍に入ることになります。

そのような事態を避けるために出生届が提出されず、その子は無戸籍者となってしまうのです。

それでは上記の場合、元夫の子であるとの推定を覆す手段はないのでしょうか。

これについては、3つの手段があります(元夫に対し、その子は自分の子ではないことを認めてもらう(嫡出否認と言います)訴えを起こすという手段もありますが、現実性がないため、ここでは割愛します)。

まず1つは元夫を相手に父子関係不存在の確認訴訟を提訴することです。

しかしながら、この手段では元夫を相手にせざるを得ず、妻子(特に妻)にとっては会いたくもない元夫との接触は避けられません。

2つ目は、血縁上の父に対し、子が原告となって、自分を血縁上の父の子として認知するよう求める訴えを起こすのです(強制認知と言います)。

この場合は、一番目の手段と異なり、元夫との接触は避けられますが、裁判費用(弁護士費用)に加え、DNA鑑定など裁判の相手方である男性が自分の血縁上の父であることを立証しなければならず、手間がかかります。

そして3つ目は、離婚後300日以内での出産ではあるが、離婚後に妊娠してできた子であることを医師に医学的に証明してもらうのです。

具体的には担当医に証明書を書いてもらうことになります(これは2007年の法務省からの通達により認められるようになりました。報道によれば、この手続きにより出生届が受理されたケースは約2,000件あるそうです)。

これについても、「離婚後300日」という期間は、ある程度合理的根拠をもった期間であるため、上記期間内にもかかわらず、離婚後に妊娠したというケースはさほど多くはないと思われます。

以上の通り、上記のいずれの手段もデメリットがあり、かついずれも戸籍がない子側が積極的なアクションを取らなければならないものばかりです。

ともあれこの問題で一番不幸なのは「子」です。

民法の「嫡出推定制度」は、早期に父子関係を確定させ、子の福祉を図る趣旨で設けられました。

つまり「子の幸福のための制度」なのですが、これが結果的に「子を不幸にする」原因ともなっており、皮肉としかいいようがありません。

ともあれ、今の日本において、今回紹介した問題が現に存在し、それによって苦しんでいる人がいることをまずは「知る」ことが大事ではないかと考え、今回紹介した次第です。

[カテゴリー:]

< 「メロン熊」裁判 記事一覧 マタハラ訴訟 >

y[Wgbv