社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

先例か、民意か

2014年7月28日

今回は、検察官の求刑の1.5倍の懲役刑を下した裁判員裁判の判決を破棄した最高裁判決について、書いていきます。

事件の概要ですが、自分の子(当時1歳)を虐待の上、死に至らせたとして、傷害致死罪に問われた両親に対する裁判員裁判において、検察官はそれぞれの両親に対し懲役10年を求刑しましたが、第1審の裁判所は各両親に求刑の1.5倍である懲役15年の判決を下しました。

その後、本判決は量刑(下された刑罰)が不当であるとして高裁に控訴されましたが、高裁も懲役15年を維持し、この裁判は最高裁に上告されました。

これらの判決に対し、最高裁は、地裁、高裁が下した量刑(懲役15年)を不当としてこれらを破棄し、父親に懲役10年、母親は虐待行為に加わっていないとして懲役8年の判決を下しました。

まず、裁判員を含む第1審の裁判所が両親に重い刑を下した理由ですが、親による児童虐待の傷害致死という行為責任は重大、結果(死)も重大、身勝手な動機による不保護を伴う常習的な虐待の存在、両親らの堕落的な生活態度や罪に向き合わない態度、虐待行為の責任の一端を被害者の姉である子(当時3歳)になすりつける態度を挙げています。

加えて、検察官の求刑以上の刑を下したことについては、上記で紹介した両親らの態度やその行為の悪質性等両親の態度の問題性を検察官が十分に評価していないとした上で、過去の同種事件の量刑傾向についても、裁判所にある量刑検索システム(裁判所内にある独自のシステムで、過去の裁判例の事案とその量刑を検索することができます)では、量刑を決める上での要素を全て把握することは困難で、各判断の妥当性を検証できない等を理由に本件との比較は難しいとし、そうであるなら、近時の法改正から伺える児童の生命等尊重の要求の高まりを含む社会情勢を考慮し、厳しい罰を科すことが妥当としました。

また高裁も、量刑検索システムによる検索結果は、あくまで量刑判断をするに当たっての参考になるものにすぎず、法律上も事実上も何らそれらを拘束するものではないから、第1審の量刑判断が同種事犯の刑よりも突出して重いなどによって直ちに不当であるということはできないとし、懲役15年を維持しました。

これら地裁、高裁の判断に対し、最高裁は、先例の集積それ自体は法規範性を有するものではなく、刑事裁判に国民の視点を入れる裁判員裁判の導入により、それ以前の先例の集積結果に変化を与え得ることは当然に想定されていたとしつつも、これまでの量刑傾向を視野に入れて判断がされることは、量刑判断のプロセスが適切なものであったことを担保する重要な要素であり、裁判員裁判といえども、他の裁判の結果との公平性が保持された適正なものでなければならない。裁判員との評議に当たっては、これまでの量刑の傾向を裁判体の共通認識とした上で、これを出発点として当該事案にふさわしい評議を深めていくべき、としました。

その上で、本件における地裁、高裁の判断について、これまでの量刑の傾向から踏み出し、検察官の求刑を大幅に超える懲役刑を下す具体的、説得的な根拠が示されるとは言い難いとし、冒頭述べた地裁、高裁の判決を下回る(検察官の求刑内の)判決を下したのです。

以上、長々と紹介しましたが、私なりに簡単に整理してみると、地裁、高裁は、十分な検証や比較ができない先例から伺われる量刑の傾向よりも、近時の法改正や社会情勢を考慮すべきとした一方で、最高裁は、裁判員裁判といえども「他の裁判の結果との公平性」は保持されなければならないとし、そのためにも先例から伺われる量刑の傾向を量刑判断の出発点にすべきとしたものと思われます。

話は変わりますが、会社等組織におけるいわば「刑罰」ともいえる懲戒処分を行うにあたっての重要な考慮要素として、「他の同種事案との公平性」が挙げられます。

確かに量刑がその時々の直感ではなく、他の事案との公平性を図る必要があることは、この懲戒処分の例を考えれば、ある程度理解することができます。

今回の最高裁の判断は、単純に「先例を尊重すべき」と述べたわけではないと思いますが、この判断が独り歩きし、過度に慎重に運用され、国民の意見を裁判に反映するという裁判員裁判の理念が後退し、前例を過度に尊重した判断が続いてしまう可能性もないではありません。

裁判員裁判が導入されて5年。今回の最高裁判決を受け、今後の裁判員裁判がどう運用されていくか、注意深く見守っていきたいと思います。

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