社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

DNA検査か、民法か

2014年7月24日

今回は、DNA検査の結果、父子関係がないことが明らかとなった子が提起した親子関係不存在確認訴訟と最高裁判決について、書いていきます。

事案の概要を簡単に説明しますと、男性Aが妻Bとの婚姻中、妊娠し、子供Cを出産しましたが、DNA検査の結果、Cの父は別の男性Dであることが分かりました。

そこで、子CがAを相手に親子関係不存在確認の訴えを提起したのが今回の事件です。

なお、現在CはAと同居しておらず、母であるBとともに、DNA検査の結果、父であるとされたDと同居しています。

このCの訴えについて、最高裁はその主張を退け、AとCとの親子関係を否定しませんでした。

この裁判の争点は、民法772条が「妻が婚姻中懐胎した子は、夫の子と推定する」と規定しているところ、DNA検査により夫の子でないことが明らかになった場合でも、この推定規定は適用されるのかということです(以下、民法772条により推定を受ける父(本件ではA)を「法律上の父」と言い、DのようにDNA検査の結果父とされた者を「生物学上の父」と言います)。

この点について、最高裁は、本件のように、その子が法律上の父の子でないことが明らかで、かつその子が生物学上の父とされている者と同居し、その者により監督保護されている状況下であっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要がなくなるわけではないとして、本件の場合でも民法772条の適用を肯定し、法律上の父であるAとCとの親子関係を否定しなかったのです。

また最高裁は、上記の結論により法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合も生じるが、民法はその不一致を容認していると述べています。

今回の最高裁判決は、DNA検査よりも民法の規定を優先したわけですが、5人の裁判官の中で2人が反対に回るなど、最高裁の中でも相当議論のあった問題であったことが伺えます。

ところで、最高裁判決が出される場合、その判決文とともに、最高裁判事によって書かれた、多数意見を補足する補足意見と多数意見に反対する反対意見が公表される場合があり、今回の事件でもそれらが公表されています。

これらの意見を読むと各裁判官がどういった考え方でその結論を出したのかが非常によく分かりますので、興味のある方は是非一読されることをお勧めします(裁判所のHPの裁判例情報に掲載されています)。

この意見の中で、ある裁判官の補足意見が印象に残りましたので、紹介しますと、反対意見が、法律上の父との夫婦関係が破たんして子の出生の秘密が露わになった場合で、かつ生物学上の父との間で新しい家庭関係が形成されている場合には、法律上の父との親子関係は否定してもよいと述べているのに対し、「男女の関係は変わり得るものであり、訴訟係属中にも事情は様々に変動」するから、子の身分関係を不安定にするという問題が残るとしてこの考え方を否定しています。

これを私なりに解説しますと、今後、今回の同様の事件が提訴された場合、反対意見に従うならば、原告である子側としては、反対意見が述べている要件(法律上の父との夫婦関係が破たんして子の出生の秘密が露わになり、かつ生物学上の父との間で新しい家庭関係が形成されていること)を裁判で立証しなければなりませんが、ご承知の通り、裁判は時間を要しますから、判決までの間に妻と生物学上の父が別れる等の事情が生じれば、子側の訴えは認められなくなります。

つまり、訴え提起には生物学上の父との父子関係が認められ得たにも関わらず、判決時には認められなくなるということで、子からすれば、自分のコントロールできない事情で、自己の身分関係が決められるという非常に不安定なものとなります。補足意見は、上記のことを懸念しているものと思われます。

またこの補足意見では、『裁判所が、私的に行われたDNA検査の結果を見て、「生物学上確実な事実が判明した以上は仕方がない」という姿勢をとるならば、DNA検査の結果だけが法廷を支配することになる』、『年齢的にみて子の意思を確認することができない段階で、これまで父としての自覚と責任感に基づいて子を育ててきた上告人(法律上の父)の意思を無視して、DNA検査の結果に基づき、子の将来を決めてしまうことには躊躇を覚える』と非常にエモーショナルな意見も述べられています。

今回の判決は、札幌と大阪で起こされた同様の事件に対して下されたものですが、前者は法律上の父と妻との離婚が成立しているのに対し、後者では、未だ離婚訴訟係属中で、離婚は成立していないようです。

また、そもそも自分の間に血縁関係がないにもかかわらず、民法772条の適用を求め、その子の父親であることを求める父親の気持ちを考えると、上記の補足意見に、私自身は共感を覚えます。

この判決をめぐり、明治時代にできた民法772条の規定は、科学技術が高度に発達した現在にそぐわなくなってきたのではないかとの意見がありますが、「子の身分関係の安定」は、明治時代から今に至っても保護すべき重要な法的利益ですし、血縁関係を超えて父になろうとする法律上の父親が現実に存在する以上、この規定の改正は慎重に検討すべきであると考えます。

上記は私の個人的な意見ですが、皆さんも今回の判決の補足意見や反対意見も参照しつつ、自分の意見を持っておくことは有用であると考えます。

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