社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

国民の知る権利VS刑事訴訟手続

2014年2月12日

今回は、ある弁護士が報道機関に裁判上の証拠を提供したとして、検察庁から懲戒請求された事件について語っていきます。

まず、弁護士が提供した証拠は、傷害致死罪に問われた被告人に対する取り調べの様子を録画したDVDです。

この被告人は、上記DVDが決定打となり、裁判員裁判で無罪になりました。

その後、被告人の弁護を担当した弁護士は、捜査機関による取り調べの実態を世に知らしめる目的で、被告人の同意を得たうえ、このDVDを報道機関に提供。報道機関は、被告人や取り調べ担当官の顔が分からないような措置を施したうえで、このDVDを報道機関に渡し、報道機関はそれを放送に使用しました。

ところが、刑事訴訟手続について定める刑事訴訟法(281条の4)では、検察官から開示された証拠について、当該刑事事件の審理やその準備に使用する以外の目的で他者に提供してはならないと定めています。

よって、この弁護士のDVD提供行為が上記刑事訴訟法の規定に違反するとして、当該事件を担当した地方検察庁は、同弁護士が所属する地方弁護士会に対し、当該弁護士を懲戒処分にするよう請求したのです。

この懲戒請求に対し、弁護士会は、当該弁護士の行為について、刑事訴訟法で禁止されている証拠の目的外使用に該当し、同法に違反するとしながらも、「取り調べの可視化の議論に資するという社会性のある目的のためになされ、悪質性はない」と判断し、同弁護士を懲戒しない旨の決定を下しました。

この決定に対しては、不服のある側が、日本弁護士連合会に対し更に異議申し立てができるのですが、報道によれば、検察庁は異議申し立てをしない方針とのことで、この弁護士の行為をめぐる一連の事件は終結する見通しとなりました。


以上が、本事件の概要ですが、この事件については、考えるべき点が多々あると思います。

確かに、検察官が提供した証拠は、裁判で使用する目的で弁護側に提供したもので、それが勝手に第三者、しかも報道機関に提供されることは全く想定していなかったことでしょうし、「証拠の目的外使用はしない」ということは、刑事、民事を問わず裁判上のルールの基本ともいえるものです。

またこのDVDが決定打となって被告人に無罪判決が下ったということですから、起訴した検察側としても弁護側に積極的に開示するような証拠ではなかったに違いありません(むしろ開示したくない証拠だったと思います)。

そういった意味で、このような証拠を検察側の了承なしに報道機関に提供した弁護士に対し、検察庁が懲戒請求したくなるのも全く理解できないわけではありません。

他方、取り調べの全面可視化が実現していない中、被告人の無罪判決の決定打となったDVDの内容(取り調べの内容)がどのようなものであったのか、取り調べの可視化の有効性等を今後議論していくうえでも、我々国民としては知りたいところです。

また、そもそもこのDVDは公開の法廷である裁判員裁判において証拠採用されていたもので、内容としても特に機密性があるものではありません。

さらに、DVD提供に際しては、被告人の同意を得ており、また放映された内容も関係者のプライバシーに配慮したものであったということで、特に実害は生じていません。

以上のことから、今回の弁護士会の決定は妥当であったという結論が大半を占めているようです。

ただ、懲戒請求された弁護士が主張しているように、今回のような公益性の高い目的での目的外使用の場合には、そもそも刑事訴訟法違反ではないとの解釈は不可能だったのでしょうか。

目的外使用を禁じている同法の条文の第2項に以下の定めがあります。

「2.前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。」

読んでいただくと分かるように、この条文はまさに今回のようなケースを想定した条文に思えてなりません。

形式的には違法だが、実質的には違法性が低い今回のような場合に、違反者を処罰するのかどうかについては、主に刑法学者において昔から議論されているトラディショナルなテーマですが、特に私のような企業のコンプライアンス担当者は、今回のケースを題材に今一度よく考えておくべきだと思います。

[カテゴリー:]

< タイ総選挙と民主主義 記事一覧 保険金不払い問題と監督官庁の対応 >

y[Wgbv