社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

裁判所が一般の意見を公募?

2014年1月30日

今回は、ある知財訴訟において、裁判所が裁判上の争点について、一般からの意見を募集した事件について、語っていきます。

事件は、米国アップル社(以下、アップル)と韓国サムスン電子(以下、サムスン)との間のスマートフォンの特許を巡る訴訟で、原告であるアップルが、被告であるサムスンが保有する特許権を侵害しておらず、サムスンのアップルに対する特許侵害に基づく損害賠償請求権がないことの確認を求めた訴訟です(このような訴訟を「債務不存在確認訴訟」といいます)。

1審では、やや特殊な理論構成で(この点は後ほど説明します)、原告アップルの主張を認め、被告サムスンに、アップルに対する特許侵害に基づく損害賠償請求権がないことを確認する判決を下しました。

そこで、被告サムスンが控訴し、事件は知財高裁に係属されました。そして、この知財高裁が、本事件におけるある争点について、一般からの意見を募集したのです。

報道によれば、裁判所がある争点について、一般から意見を募集することは初めてということですが、現時点では裁判所がそのようなことを求める法的根拠がないため、提出先は、裁判所宛てではなく、各当事者の代理人宛てということになっています(つまり、各当事者が自分宛てに届けられた自己に有利な意見を証拠として裁判所に提出するということです)。

従前から、ある裁判上の争点について、各当事者が、その道の専門である学者や弁護士等に意見書を書いてもらい、それを証拠として裁判所に提出するというようなことは行われていました(当社が進めている「セイロガン糖衣A」裁判でも専門家に意見書を書いていただきました)。

ただそれは、各当事者が、意見書を書いてもらえるような専門家を自分で探し、個別にお願いをするものです。

今回の事件のように、「裁判所自ら」が、しかも「一般」から意見を募集するようなことは今まで聞いたことがなく、日本の裁判所の対応としては、相当異例です。

募集期間は約2か月間となっており、どれほどの意見が集まるのか、注目したいところです。

ところで、このような異例の対応を強いるような「ある争点」とは何なのでしょうか。

裁判所が公表した資料によれば、以下のようです。

「標準化機関において定められた標準規格に必須となる特許についていわゆるFRAND宣言(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory な条件で実施許諾を行うとの宣言)がされた場合の当該特許による差止請求権及び損害賠償請求権の行使に何らかの制限があるか)

これだけ見ても「???」だと思いますので解説しますと、まず「FRAND宣言」とは、標準規格における必須特許について、公正、合理的かつ非差別的な条件(fair, reasonable and non-discriminatory terms and conditions)で他社にライセンスを行う旨の宣言を言います。

今回問題となっているサムスンの特許は、スマートフォンのような移動通信システムの世界標準化を目的とした民間団体が策定した通信規格における必須特許で、サムスンはあらかじめ、この特許について、取り消し不能なライセンスを公正、合理的かつ非差別的な条件(fair, reasonable and nondiscriminatory terms and conditions)で許諾する用意がある旨の宣言(本件FRAND宣言)をしていました。

つまり、サムスンは自己が保有する標準規格の必須特許につき、誰が相手であっても、公正、合理的かつ非差別的な条件でライセンスを与えると宣言していたのです。

しかしながら、実際のライセンス料の交渉において、ライセンス先(今回の場合はアップル)と妥結できなかった場合、本件FRAND宣言をした特許権者が、本特許を使用している当該ライセンス先に対し、特許侵害に基づき損害賠償請求できるのか、何らかの制限はないのか、というのが上記争点です。

本事件の第1審判決は、この点について、アップルがサムスンの特許を侵害していることは認定したものの、サムスンが当該特許をアップルにライセンスすることにつき、サムスンとアップルとの間で交渉が開始されたにもかかわらず、サムスン側が、重要な情報(他社にどのような条件でライセンスしているのか)をアップルに提示せず、誠実な交渉をアップルと行うという信義則上の義務を怠ったとし、このような義務違反をしたサムスンがアップルに対し特許侵害による損害賠償請求をするのは権利の濫用であり、認められないとしました。

今回の一般公募はこの1審判決の判断内容の妥当性も含めたものになると思われますが、上記争点は、日本は当然として、世界的にも未だに答えが出ていない重要な法的問題であり、そのために知財高裁は、広く意見を求め、妥当な判断を導こうとしているのかもしれません。

今回の取り組みは日本初であり、これが成功するのか、不発に終わるのかは全く不明ですが、これが成功すれば、当事者としても、今後専門家を探す手間も省けますし、何より各当事者が探しきれなかった(真の)専門家を発掘するきっかけにもなります。

こういった点からも、今回の取り組みが成功裏に終わることを祈るばかりです。

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