社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

名誉棄損の慰謝料

2014年1月16日

今回は、名誉棄損をされた場合の慰謝料について、語っていきます。

新年最初のブログになります。

本年も本ブログをよろしくお願いします。

さて、芸能人やスポーツ選手、政治家等が週刊誌や新聞等で、その社会的評価を低下させる記事を書かれてしまった場合、その人の名誉を棄損したとして、民法に基づき、その記事により被った精神的損害の賠償、つまり慰謝料を、その記事を書いた記者や出版社に請求することができます。

この名誉棄損による慰謝料。一体どの程度の金額が裁判所で認められているのでしょうか。

最近では、

①某新聞社の会長が、月刊誌を訴えた裁判では、500万円の請求に対し、30万円、
②某女優が、新聞社を訴えた裁判では、2億8,000万円の請求に対し、330万円、
③ある事件の犯人として扱われた一般の方が、出版社を訴えた裁判では、5,500万円の請求に対し、約580万円、
④元大臣が出版社を訴えた裁判では、3,300万円の請求に対し、330万円、
⑤某エンターテイメント会社が出版社を訴えた裁判では、5,500万円の請求に対し110万円、

の支払いを命じる判決が出されています。

いずれも事案が異なり、まとめて論じることは難しいかもしれません。

また、上記はいずれも、その記事が原告の名誉を棄損していると認定した事案ではあるものの、全ての記事を名誉棄損と認めたのではなく、一部の記事のみについて名誉棄損を認定した事案もあります(上記①の事案はそうです)。

こういった事情を考慮したとしても、上記いずれの事案も、支払い命令額は、請求額とは大きくかけ離れていることがお分かりいただけると思います。

この他にも名誉棄損による慰謝料請求訴訟は多数提起され、判決も多数出されていますが、名誉棄損が認められたどの事案でも、請求額と支払い命令額とのかい離は大きく、原告の請求が満額認められたケースというのは、ほぼ無いといってよいのではないかと思います。

ではなぜこのような現象が起きているのでしょうか。

そもそも慰謝料とは、どのように算定するのでしょうか。

この点、慰謝料とは、その人の受けた精神的苦痛を金銭的に評価したものです。

交通事故により怪我をした場合は、その治療代や入院代等が損害であり、この場合、損害額は容易に算定することができます。

しかし、「精神的苦痛」となると、それはかなり主観的なもので、客観的な基準で算定することは非常に難しいのです。

それでは上記で紹介した事案において、原告は請求額をどのように積み上げたのかと言えば、原告ないし原告代理人としても何らかの理屈は考えた上で算定はしているでしょうが、「精神的苦痛」は主観的なもので、依頼者である原告本人が「○○円請求してほしい」と言われれば、原告代理人である弁護士としては、理屈はそれほどないとしても、原告の意思を尊重し、そのまま請求せざるを得ないというのが現実なのだろうと考えます。

他方、裁判所の立場から考えた場合、名誉棄損を認定したら、その後裁判所としては何とかして損害額を算定しなければなりませんが、客観的な基準はないに等しいですから、明確な理屈がない中での金額提示にならざるを得ない。そうすると、支払義務を負う被告のことも考慮すると、あまりにも高額の慰謝料の支払いは命じにくいといった事情もあると思います。

また、余りにも高額な慰謝料の支払いを命じるようなことが続けば、書く側に「こんな危険な目に合うのであれば、記事は書かないでおこう」という萎縮効果が生じ、これはひいては憲法上保障されている「表現の自由」を制限する結果にもつながっていくのです(そしてこれにより真実を書く記者がいなくなれば、我々国民の「知る権利」にも重大な影響が生じてきます)。

以上のような点から、名誉棄損による慰謝料請求訴訟においては、請求額と支払い命令額に著しいかい離が生じているのではないかと思われます。

確かに上記で述べた裁判所側の事情も分からないではありません。

また「表現の自由」を制限するような結果は避けなければなりません。

しかしながら、ひとつ気をつけなければならないのが、書く側の「記事の書き得」です。

つまり、余りに低い慰謝料額のみしか認められないとすると、書く側は、多少の名誉棄損はあっても、また仮に十分な裏どりをしていなかったとしても、その雑誌や新聞が売れれば、慰謝料額は十分カバーできると考え、結局は「書いたもの勝ち」になってしまう恐れがあるのです。

これでは、余りにも書かれたほうの人権は軽視されることになります。

名誉棄損の慰謝料額の相場は、従前100万円程度と言われていましたが、上記事案からも分かるように、昨今は、請求額とはかけ離れているとはいえ、300万円~500万円程度は認められるようになってきました。

そういった意味で、裁判所としても「書いたもの勝ち」は許さない傾向になっているのかもしれません。

他方、原告側も、裁判所が満額認定できるよう、ある程度合理的根拠をもって請求額を算定すれば、裁判所としても満額認定する方向になっていくと思いますので、原告代理人である弁護士も「書いたもの勝ち」は許さず、かつ依頼者の満足する賠償額を勝ち取るために、請求額の妥当性や理屈を考える努力を重ねる必要があると思います。

こういった細かい努力の積み重ねの先に、「現状が変わる」という結果が待っているのです。

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