社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

矛盾する2つの判決

2013年11月19日

今回は、諫早湾干拓事業を巡る高裁と地裁の矛盾した2つの判決について語っていきます。

先日、諫早湾干拓事業に係る潮受け堤防排水門について、干拓地の営農者らが国に対し、開門をやめるよう求めた仮処分申し立てについて、長崎地裁は、この申立人の主張を認め、国に対し、開門の差し止めを命じる決定を下しました。

もともと国が開門調査を準備していたのは、2010年12月に、福岡高裁が、干拓事業による漁業への影響などを調べるため、国に5年間の開門調査を命じる判決を出したことによるものです。

つまり、福岡高裁は国に開門を命じたのに対し、長崎地裁は国に開門の禁止を命じたことになり、結論だけを見ると全く矛盾する結論になってしまったのです。

なぜこのような結論になってしまったのでしょうか。

まず、福岡高裁は、干拓事業により堤防を閉め切った直後から諫早湾や有明海に赤潮が発生し、漁獲量が減少した事実を認定した上で、「同事業と諫早湾等を漁場とする漁業者の漁業被害との因果関係を肯定」し、「堤防閉め切りは漁業者の漁業行使権を侵害する」として、開門調査を命じました。

一方で開門を命じると、農業用水を供給する淡水の調整池に海水が流入し、干拓地での農業ができなくなるようにも思われますが、この点について福岡高裁は、「干拓地における営農にとって堤防閉め切りが必要不可欠であるとはいえない」と判断したのみで、堤防開放による農業被害については認定をしていませんでした。

対して、長崎地裁は、堤防閉め切りによる諫早湾等での漁業への影響について、「国からの主張がなかった」として、「堤防締め切りによる漁業被害の点は、開門差し止めを判断するにあたり考慮できなかった」としました。

また同地裁は、堤防開放による干拓地での農業被害が深刻であることも理由に開門の差し止めを命じたわけですが、この農業被害について、福岡高裁は上記の通り、「堤防閉め切りが必要不可欠であるとはいえない」と述べるのみで、その被害について認定していないとし、福岡高裁とは「判断の根拠となる事実が大きく異なる」と、結論が矛盾するに至った理由を説明しています。

ここで、長崎地裁の上記説明を理解するために重要な民事訴訟法の原則を説明すると、民事訴訟では、裁判所は、原告ないし被告が主張した事実でしか判断の基礎にしてはならないという原則(弁論主義)があります。

よって、裁判所は、原告ないし被告が主張した事実のみでしか判断せざるを得ず、逆にいえば原告及び被告が主張していない事実を判断の基礎にしてはならないのです。

そのため、今回の長崎地裁も、堤防閉め切りによる漁業被害について、当事者のどちちからも主張がなかったため、開門差し止めの可否の判断の基礎にできなかったのです。

とはいえ、高裁と地裁で、高裁のほうが裁判所の級としては上だから、高裁の判断が優先されるのではないかとも思われますが、福岡高裁の事件(開門の義務付け訴訟)と今回の事件(開門禁止の仮処分申請事件)とは一応事件は別ですから、福岡高裁の判断に長崎地裁は拘束されないとされています。

とにもかくにも、2つの矛盾する命令を受けることになった国としては、今後どのような対応をとるのでしょうか。

報道によれば、開門を求める側は、間接強制として、仮に国が開門を実施しなかった場合、国に「制裁金」を支払うよう求める裁判を、他方、開門禁止を求める側は、仮に国が開門を実施した場合、同様に「制裁金」を支払うよう求める裁判を提訴する意向のようです。

一部報道では、福岡高裁判決が出た際、上告しないことを決定した当時の政権を批判する声もあるようですが、本件に関しては、こうなってしまった以上、司法では永久に決着はつきそうになく、政治による解決が最も適した解決方法であると私は考えます。

国にとっては大変難しい判断を迫られたことになりますが、現政権がどのような対応をするのか、今後も動向を注視する必要がありそうです。


* ちなみに、なぜ今回、国が堤防閉め切りによる漁業被害を主張しなかったのかについてですが、一部報道によれば、国としては、依然として福岡高裁が認定した干拓事業と漁業被害との因果関係を認めていない立場であり、堤防閉め切りによる漁業被害を主張することはその立場と矛盾することになるから、だそうです(理屈としては分からなくはないですが、こういった事態になる前に、他にやりようはなかったのでしょうか)。

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