社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

被害者保護VS被告人の人権 その2

2013年10月29日

今回は、以前にも取り上げた「起訴状に被害者の実名を記載すべきか」について、現状における検討状況を中心に語っていきたいと思います。

今年7月にアップしたブログで、ある強制わいせつ事件において、東京地方検察庁(東京地検)が、被害者保護の観点から被害者の氏名を匿名にして、ある男性を起訴したところ、東京地方裁判所(東京地裁)が被害者の実名を起訴状に記載するよう求めていることを紹介したと思います。

その後、報道によれば、東京地裁の刑事事件を担当する裁判官により、この問題に関する検討が行われ、起訴状に被害者の実名を記載することによって、①生命や身体への具体的な危険が生じる場合、または②名誉を著しく傷つける場合に限り匿名を認めることで意見がまとまり、今月上旬、そのことが東京地検に伝えられたそうです。

具体的に、①は、ストーカー被害者で、被害者の実名を記載することにより、犯人が服役後、さらに同一被害者に危害を及ぼす可能性がある場合を、②は、氏名がネット上に流出することにより名誉を傷つけられる可能性が高い著名人の場合を、それぞれ想定しているようです。

さらに東京地裁による検討は起訴状だけでなく、証拠や判決文にまで及んでおり、証拠、具体的には被害者の供述を記載している調書について、被告人が開示を求めてきた場合、弁護人には開示はするが、その場合、裁判所は弁護人に開示禁止命令を出し、被告人には開示しないよう弁護人に命じることで対応すること、また判決については、被告人が判決文の写しの交付を求めてきた場合には、被害者名を隠して被告人に交付することも検討されているそうです。

このように、ある地方裁判所が、ある司法運用上の問題について見解を出し、それを検察庁に伝えるというのは異例のことですが、これは検察庁が今年から、被害者保護の観点より被害者の実名を記載せずに起訴するという措置を幾度となくとってきたことを踏まえ、当該事件を受ける担当裁判官により対応が区々にならないよう、あえて裁判所としての統一見解を示したものと思われます。

これにより少なくとも、東京地検及び東京地裁管轄の事件については、上記により対応がなされるものと思われます。

一方で、上記以外の地域(例えば大阪)における事件の対応はどうなっていくのかについては、現在のところ不明です。

以前この問題を取り上げた時にも述べましたが、この問題は、被害者が再度被害にあわないために、匿名にする必要性がある一方で、被告人にとっては被害者が公表されなければ、検察官の主張に対し的確な反論ができず、最悪の場合には冤罪を生む可能性があるため実名を公表する必要もあるという、非常に調整が難しい問題です。

今回東京地裁が出した見解は、一定程度、被害者、被告人双方の利益に配慮しているという点で評価できると思います。

ただ、生命や身体への「具体的な危険」が生じる場合とはどのような場合か等、基準として若干曖昧なところもあります。

また、そもそも法(刑事訴訟法)が起訴状に記載する被害者の名前を匿名することを認めているのか不明ですし(法制定当時は全く想定していなかったと思います)、被害者の名前を匿名にする場合を、上記の2つの場合に限定する明確な法的根拠もありません。

やはりこの問題は、最終的には、法改正により明確にしていくべき問題だと、私は考えます。


* この問題1つを取ってみても、まだまだ日本の司法には、解決すべき問題が多くあることを実感します。

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