社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

被害者保護VS被告人の人権

2013年7月22日

今回は、「性犯罪における起訴状に被害者の実名を記載すべきか」という問題について語っていきます。

ある強制わいせつ事件において、東京地方検察庁が、被害者保護の観点から被害者の氏名を匿名にして20代男性を起訴したところ、東京地方裁判所が被害者の実名を起訴状に記載するよう求めていることが報道されました。

この裁判所の指示に東京地検が従わない場合、検察官の起訴(公訴)は棄却され、起訴された男性の裁判は開かれないことになります。

そうすると、最悪の場合、この男性は罪を問われることがなくなってしまうかもしれません。

なぜこのようなことになったのでしょうか。

まず、検察官が作成するいわゆる「起訴状」には、被告人が犯したとされる犯罪事実が記載され、それを裁判所と、被告人及び弁護士(刑事事件では「弁護人」といわれます)がチェックし、被告人と弁護人に反論の機会を与えた上で、最終的に裁判所が起訴状記載の犯罪事実があったか否かの判断を下します。

(なお、殺人罪などの一部の犯罪は、裁判官とともに、国民の中から選ばれる裁判員が、起訴状記載の犯罪事実があったか否かの判断を下しますが、今回の事件は裁判員による裁判ではないようです。)

そして検察官が作成する起訴状は、刑事訴訟法上、犯罪事実として、犯行の日時、場所、方法を具体的に特定しなければならないとされています。

これは、そうでなければ、被告人は何に対して反論すればよいか分からず、最悪の場合の冤罪を生んでしまう可能性があるからです。

なお、上記では、「日時、場所、方法」と言っており、被害者の実名については特に記載がありませんが、被告人が「誰に対して」犯罪行為を行ったのかは重要な事実であるとして、被害者の氏名も「実名」を記載すべきとされています。

しかしながら本件で悩ましいのは、性犯罪であり、犯行時には被害者の氏名や住所を知らない可能性も高く、被害者の実名を被告人に知らせてしまえば、最悪の場合、二次被害を誘発する可能性もあるということです。

本件において、検察官は被害者の両親から氏名を出されないよう釘を刺されており、氏名を出すのであれば、被告人を起訴するのに必要な「告訴」を取り下げるとまで言われていました。

そこで担当検察官は、被害者を匿名して起訴したのですが、東京地裁により被害者の実名を明らかにするよう求められてしまったのです。

この裁判所からの指示に対し、担当検察官がどのように対応するのかは未だ明らかではありません。

この問題はまさに、「被害者のプライバシーの保護」と「被告人の人権」が真っ向から対立する問題であり、なかなか調整が難しい問題であると思います。

また刑事訴訟法等関係する法令にも明確な規定がなく、運用に委ねられている問題でもあります。

確かに被害者保護は大事ですし、安易な被害者情報の公開により、二次被害を誘発することは避けなければなりません。

ただ、強制わいせつ事件等の性犯罪において冤罪事件が存在することも事実ですし、正しい事実認定のためにも、被告人には十分な反論の機会を与えるべきであると思います。

この「起訴状において被害者の実名を記載すべきか」という問題について、検察庁は「一律に匿名化するわけではない」と述べているようです。

確かにこの問題は、被告人が犯したとされる犯罪の性質や具体的な事件の特徴を踏まえて、ケースバイケースで対応するのがベターなのかもしれません。

今回問題になっている強制わいせつ事件ですが、報道によれば、被告人は事実関係を争ってはおらず、また事前に被害者を知った上で行った計画的なものでもないようです。

これらのことからすれば、今回問題になっている事件だけを考えれば、被害者の実名は犯罪事実の認定に必須のものではないような気がします。

ただ、何らかの特定は必要だと思いますので、被害者の身体的特徴やその日の行動等で特定することも1つのアイデアとして考えてもよいのではないかと思います。

皆さんはこの問題、どのように思われましたか。

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