社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

事情判決の法理とは

2013年4月 1日

今回は、「事情判決の法理」について語っていきます。

昨年12月に行われた衆議院議員総選挙について、「1票の格差」があるとして、弁護士グループが、その選挙の無効(やり直し)を求めて訴訟を提起し、すでに全ての高等裁判所で判決が出されたことは皆さんご存知のことと思います。

報道によれば、多くの裁判所において、1票の格差が生じているのは、投票価値の平等を求める憲法第14条(法の下の平等)に違反していると判断されましたが、選挙の無効を求める請求については、一部の裁判所を除き、ほとんどの裁判所で退けられました。

通常、ある行為や法令が違法とされた場合、その行為や法令の効力は否定され、初めから存在しなかったものとなるというのが大原則です(そうでなければ裁判をする意味がありません)。

よって、今回の裁判の場合でも、昨年行われた選挙は違法とされたのですから、その選挙は最初からなかったこととなり、選挙はやり直しとなるのが筋です。

にもかかわらず、多くの裁判所で、「選挙は違法だが、選挙のやり直しはしない」との判断が下されました。

これはなぜでしょうか。

これを解く鍵は、今回紹介する「事情判決の法理」にあります。

もともと「事情判決」という制度は、行政事件訴訟法(31条)に定められています。

この規定は、ある行政機関の処分(許可、認可等)について、その処分が違法であるとして取り消しとすべき場合でも、処分を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、判決において、その処分が違法であることを宣言しつつも、原告の求めた請求(行政機関の処分に対する取消請求)を棄却することができると定めたものです。

これを具体的に説明すると、例えば、ある河川の使用許可がなされ、その後、ダムが建設されました。しかし、後になってその使用許可が違法であるとして当該許可の取消訴訟が提起され、その結果、許可は違法と判断されたものの、この許可を違法として無効とすると、許可を前提に行われたダム建設も違法になり、結局ダムを撤去しなければならないというような場合に、この事業判決の制度を用いて、許可自体は違法とするものの、ダム建設自体は有効とするのです。

このように「事情判決」の制度は、ある行政機関の行為の取消しを求める訴訟において使用されることを想定しており、今回のような選挙のやり直しを求める訴訟への使用は全く想定されていません。

また今回のような選挙の無効(やり直し)を求める訴訟について定めた公職選挙法は、今回のような選挙関係の訴訟に、「事情判決」の制度について定めた上記行政事件訴訟法の規定を準用することを認めていません。

にもかかわらず、多くの裁判所は、この「事情判決」の根底にある考え方(つまり「法理」)は、「一般的な法の基本原則」であるとして、いわば事情判決制度を「転用」し、選挙は違法と宣言するが、行われた選挙自体は無効としないという判断をしているのです(これがいわゆる「事情判決の法理」と言われるものです)。

ところで、なぜ事情判決制度をいわば「転用」してまで、選挙の効力を維持する必要があるのでしょうか。

よく言われるのが、仮に選挙が無効となり、衆議院議員全員がその身分を失った場合、「1票の格差」を是正すべく、選挙区の区割り等を変更しようとしても、変更を実行できる人がいなくなってしまう。また当選後、それらの議員により予算案や法律案が可決された後に、選挙無効の判断が下された場合、それらの議員により成立した予算案や法律案の効力も失われてしまい、社会が混乱してしまうという問題があるから、ということです(今回においても、総選挙後、予算案や複数の法律案が可決されています)。

このような「事情」があるため、多くの裁判所において、いわば相当苦しい「理屈」を用いて、選挙のやり直しはさせないようにしているわけです。

実はこのような判断は今回が初めてというわけではなく、昭和51年の最高裁判決においてこの考え方が示されて以来、多くの「1票の格差」に関する裁判において踏襲されてきたものです。

しかし、今回の選挙については、2つの裁判所において「選挙は無効」と一歩踏み込んだ判断をした裁判所もあり、上記の「事情判決の法理」が絶対ではないことを伺わせます。

この法理については、そもそも公職選挙法自体が「事情判決」を、今回のような選挙の無効を求める訴訟に準用することを否定していることに反するという批判の他に、違法を宣言するだけでは結局それだけで終わり、いつまでたっても格差は是正できないのではないかという批判もあります(実際、今回の総選挙は、前回の総選挙の「1票の格差」に対し最高裁が違憲状態であると判断したにもかかわらず、それへの対応がなされずに行われました)。

多くの高等裁判所が関与し、異例の速さで判断が示された今回の裁判。舞台は最高裁に移りますが、最高裁がどのような判断を下すのか注目したいところです。

(前々回のブログで紹介した成年被後見人選挙権喪失規定に関する裁判は、国が地裁の判断を不服として控訴したようです。高等裁判所がどのような判断をするのか、これについても注目していきたいと思います。)

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