社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

憲法改正で役員報酬制限?

2013年3月11日

今回は、スイスにおける上場会社の役員報酬に制限をかけるために、憲法改正に向けた国民投票が行われたことについて、語っていきます。

先日、上場企業の役員報酬について、株主が制限を課すことができるようにするための憲法改正の是非を問う国民投票がスイスで行われ、投票者の67.9%が改正に賛成したことが報道されました。

報道によれば、改正案は株主の発言権を強め、スイスの上場企業の経営陣らに対する高額な退職金や報酬などの支払いを禁止できるよう、毎年の株主の決定に拘束力を持たせる内容で、違反すれば禁固刑や罰金の対象になるとのことです。

この報道を聞いて、私は非常に違和感を覚えました。

まず憲法改正のために国民投票を行うこと自体は、日本でもそうですし、特に違和感はないと思います。

しかしながら、「上場企業」という、一部の企業の、しかも「役員の報酬」という個人的な問題について、憲法を改正してまで、その支払額に制限を課すというのは、日本の場合を考えれば、全く理解できないからです。

そもそも、日本においては、「会社法」により、役員(取締役、監査役)の報酬は、上場企業、非上場企業であるかを問わず、株主(より正確には、株主によって構成される株主総会)が決定することとなっています。

(ただ、株主は個々の役員【取締役、監査役】の個別の報酬額まで決定する必要はなく、役員に支払う報酬の上限額を決定すればよいこととされています)。

日本の株式会社(監査役会設置会社)においては、株主により構成される「株主総会」が会社における最高意思決定機関であり、取締役は株主から経営を委任された存在であることから、その報酬も、選任者である株主総会で決定することとしているのです。

このように日本の感覚でいえば、役員報酬は株主が決定することはいわば常識であり、逆にこれまで無制限であったことのほうが驚きです。

ところでスイスでは「会社法」という法律はないのでしょうか。

調べたところ、スイスにも会社法があり(正確にいえば、「債務法」という法律の中に会社に関する規定があります)、日本と同様、株式会社に関する規定が存在します。

そして、スイスにおいても株式会社の機関として、株主総会、取締役会、監査役という機関を置くこととされています。

そうすると日本と同様、取締役等の役員の報酬も株主総会で決定するのではないか、と思ってしまいますが、ここからが日本とスイスの違いで、何とスイスでは「取締役会」が会社の最高意思決定機関であり、株主総会に諮らずとも、あらゆる事項の決定することができるそうです。

よって、スイスでは、自分たちの報酬や退職金についても、取締役会で自由に決定することができるのです。

(これが、スイスを本社とする、世界的に有名な企業が多い要因かもしれません。)

しかしながら、リーマンショックや欧州の債務危機問題により業績が低迷したにもかかわらず高額な役員報酬が支払われていたことや、最近でも某会社の会長が退任するにあたり、6年間で約71億円の退職金を受け取ることに合意したこと等が問題視され、今回、役員報酬を制限するための憲法改正が提案されました。

ただ、なぜ今回、スイスの株式会社について定めた「債務法」を改正するという方法ではなく、「憲法改正」という方法をとったのでしょうか。

この点については、推測の域を出ませんが、債務法を改正する場合、改正に反対する議員が多いため、実現できないが、憲法改正の国民投票により国民の支持を受けられれば、反対する議員も改正に従わざるを得ないと考えたからではないでしょうか。

また、スイスの憲法は、国民投票で過半数の賛成を得られれば、議会の同意も不要とされているそうで、このように議会の関与を必要とせずに、国民の指示が得られれば憲法が変えられる制度であることも、今回、憲法改正という手法をとった理由であると考えられます。

(なお、日本の憲法を改正するためには、衆参両議院の「総議員の3分の2」の賛成がなければ、憲法改正を国民投票にかけることができませんので、国会の関与なしに憲法を変えることはできません。)

今回のように、ある出来事に疑問をもち、それを通じて、他国の法制度との違い等について調べたり、知識を深めるということも、新たな発見があり、非常に面白いと思います。

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