社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

最高裁判所

2012年12月25日

今回は前回に引き続き最高裁判所について、高等裁判所に控訴する場合との違いやその実情などについて語っていきます。

本年5月1日のブログで、医薬品のネット販売を規制する省令が違法であるとして、医薬品のネット販売会社に医薬品のネット販売をする権利があることを認めた高等裁判所の判決を紹介したと思います。

この判決を紹介した後、被告である国が最高裁判所に上告していたところ、その判決が来年(2013年)1月11日に下される予定であることが、先日報道されました。

そして報道によれば、二審である高裁判決を覆すために必要な弁論が開かれずに判決が出されることから、医薬品のネット販売を規制する省令を違法とした高等裁判所の判断は覆らず(つまり国の上告は棄却され)、高等裁判所の判決は確定する見込みとのことです。

この報道ですが、判決が出される前なのに、なぜ結論がわかるでしょうか。

これを解く鍵は民事訴訟法という法律にあります。

同法319条は以下の通り定めています。

「上告裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類により、上告を理由がないと認めるときは、口頭弁論を経ないで、判決で、上告を棄却することができる。」

つまり上告裁判所である最高裁判所(高等裁判所の場合もありますが、ここではこれは無視します)は、上告理由書等の書面により、上告に理由がないと認めるときには、口頭弁論、つまり各当事者を法廷に呼び出して審理せずとも、上告を棄却する判決をすることができるということです(1審や2審ではこの制度はありません)。

逆に最高裁判所が、上告に理由があり、高等裁判所の判決を覆す場合については、上記規定の適用がありませんので、口頭弁論、つまり各当事者を法廷に呼び出した上で審理をしなければなりません。

報道によれば、今回の医薬品ネット販売規制事件においては、口頭弁論、つまり各当事者を法廷に呼び出して審理をするというプロセスを経ることなく、判決をするということですから、それはつまり、最高裁判所が書面審理により国の上告に理由がないと認めたため、上記319条に基づき、口頭弁論を開かずに、上告棄却の判決をするということを意味しています。

以上のことから、この事件では、最高裁判所の判決が実際出される前に結論が分かってしまうのです。

この書面審理により上告を棄却する制度のほかにも、最高裁判所に上告をする場合の独自の制度として、上告できる理由が著しく制限されていることが挙げられます。

つまり、民事事件の場合であれば、①高等裁判所の判決に憲法違反がある場合、②重大な手続き違反がある場合(具体的には口頭弁論を公開せずに審理を行った、事件に利害関係があり、本来であれば判決に関与できない裁判官によって裁判が行われた等)にのみ、最高裁判所に上告することができます。

また民事事件の場合、上記のような上告理由がない場合でも、高等裁判所の判決が、最高裁判所の判例と相反する場合その他の「法令の解釈に関する『重要』な事項を含む事件」と認められる場合には、最高裁判所に対し、上告審として事件を受け付けるよう申し立てる「上告受理申立制度」があります。

(なお、地方裁判所の判決に不服がある場合に高等裁判所に控訴することができますが、この場合には控訴の利益、つまり自分が求めた判決と実際に出た判決を比較し、後者が前者よりも小であることが要求されること以外に、控訴に対する制限は特にありません。)

この上告理由が著しく制限されている理由についてですが、最高裁判所である上告審が「法律審」であるということがよく挙げられます。

この「法律審」という言葉は、「事実審」という言葉と対になって使用されるもので、地方裁判所や高等裁判所は、主に「ある事実が存在するのかどうか」を審理の対象とする「事実審」であるのに対し、最高裁判所は、高等裁判所等で認定された事実を前提として、高等裁判所等の判決に憲法違反や法令違反がないかどうかを審理の対象とするという意味で「法律審」と呼ばれているのです。

そうしたことから、民事事件において、最高裁判所に上告できるのは、憲法違反や法令の解釈に関する重要な事項を含む場合にしかできないとされているのです。

また、上告理由が著しく制限されている理由について、よく言われているのが「最高裁判所の負担軽減」です。

「えっ、そんなのが理由になるのか」とお思いの方もおられるかと思いますが、実際のデータを見てみると最高裁判所の裁判官の負担が相当重いことを窺い知ることができます。

裁判所が公表するデータによれば、民事事件だけで、最高裁判所に上告、ないし先述の「上告受理申立制度」に基づき上告受理の申し立てがなされる件数は、平成22年の1年間を見ても、合計でなんと「4,500件」にも上ります。

また行政事件では同年で約900件程度、そして刑事事件では約2,200件ですから、合計で1年間になんと「7,600件」もの事件を処理しているのです。

そして驚くべきことに、この事件をなんとたった「15人」の裁判官で処理しているのです(1人あたり年間500件!!)。

私でも契約書のチェックが年間500件もあることを想像しただけでゾッとしますが、最高裁判所裁判官の場合、その処理対象は、原告・被告双方が激しく争ってきた「事件」であり、また出す判決は社会に著しい影響を及ぼすものですから、簡単に処理することもできません。

そう考えると「最高裁判所の負担軽減」という理由も十分納得できるような気がします。

ちなみに裁判所の公表したデータによれば、憲法違反や重大な手続き違反があるとして上告された民事事件のうちの95%以上が、不適法ないし、当事者の主張する上告理由が法定の上告理由に当たらない(具体的には、形式的には憲法違反を主張しているようで、実際は事実誤認を主張しているに過ぎないもの)などを理由として、上告が退けられています。

また「法令の解釈に関し重要な事項が含まれている」として上告受理申し立てがなされた民事事件のうちの、これも95%以上が、その事件には法令の解釈に重要な事項は含まれていないとして、上告不受理の決定がなされています。

これらはいずれも、言ってみれば「門前払い」の処理ですので、中身(高裁判決が憲法違反であるのか、ないしは法令の解釈を誤っているのか)の審理に入れるような事件は本当にごくわずかであり、最高裁判所裁判官は、いわば判断するに適さない事件の処理に忙殺されているのがよくわかると思います。

今回のブログを読んでいただいて、普段窺い知ることのできない最高裁判所の実情が少しでもお分かりいただけたのではないでしょうか。

[カテゴリー:]

< 最高裁判所裁判官国民審査 記事一覧 あの裁判の「その後」 >

y[Wgbv