社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

新日本製鐵情報漏洩事件

2012年11月14日

今回は、新日本製鉄(現新日鉄住金)が、ポスコ社等に対して起こした裁判について語っていきます。

事件の概要ですが、新日本製鉄の有する電磁鋼板に関する技術を、韓国の鉄鋼最大手のポスコ社が不正に取得し、これを使用したとして、不正競争防止法に基づき、上記技術を使用した電磁鋼板の製造販売差し止めと損害賠償(報道によれば約1,000億円)を求め、ポスコ社とその日本法人に対し、提訴したものです。

またポスコ社による上記技術の不正取得に関与したものとして、新日本製鉄の元社員に対しても、不正競争防止法に基づき、損害賠償(報道によれば、約800億円)を求められています。

先月、第1回の口頭弁論が行われ、被告であるポスコ社は全面的に争う構えのようです。

ご存知の方もおられるかと思いますが、この裁判は、なんと海外における裁判が発端となっています。

報道によれば、自社の技術を中国の鉄鋼大手である宝鋼集団に売ったとして、ポスコ社がその元社員を告訴し、その社員が裁判にかけられた際、その社員が「流出させたのはポスコ社の技術ではなく、新日本製鉄の技術」と供述したことから、ポスコ社による新日本製鉄の技術の不正取得が発覚、今回の裁判に至ったのです。

本裁判にあたり、新日本製鉄側は、裁判所からの証拠保全命令に基づき、情報を流出させたとされる元社員宅から証拠書類を差し押さえるなど周到な準備をし、訴訟に踏み切ったようです。

この差し押さえでどの程度、証拠が収集できたかは定かではありませんが、「民事事件」で、かつ「元社員宅」から証拠書類を差し押さえるというのはあまり聞いたことはありませんので、この行為からしても新日本製鉄側の強い意思が伺えます。

(ちなみに刑事事件では、警察や検察が裁判所の令状に基づき、被疑者の自宅を捜索し、事件に関する証拠を差し押さえるというのは、テレビ報道でよくご覧になると思います。)

また新日本製鉄はポスコ社だけでなく、情報を流出させた個人にも約800億円という高額の賠償を要求しています。

仮に損害賠償が全額認められたとしても、個人が賠償するにはあまりにも負担が大きすぎ、実際に回収することは難しいとは思いますが、これはそういったことよりもむしろ「他の社員への牽制」の意味が多分にあるのだと思います。

ところでこの事件で特徴的なのが、原告である新日本製鉄と被告であるポスコ社とは「業務提携関係」にあるということです。

新日本製鉄のプレスリリースにも以下の記述があります。

「当社とPOSCOとは、2000年に戦略的提携契約を締結して以降、研究開発・技術交流・原料調達等多くの分野で成果を上げており、現在も提携関係にあります。一方、個々の商品分野では互いに競争関係にあり、方向性電磁鋼板につきましては、これまで当社より、POSCOに対して、当社知的財産権を侵害している等として、警告及び請求等を行って参りましたが、問題解決の端緒が見えず、今回の提訴に至ったものです。」

とはいうものの、訴訟が長引けば、両社の業務提携関係にも何らかの影響が出てくることは容易に予想されますので、新日本製鉄にとっても「苦しい選択」であったと思いますが、「会社にとって大事な技術の流出行為、そしてその技術の不正利用行為を許してはいけない」という思いが勝った結果なのだろうと思います。

一般的にこのような技術流出事件においては、相手方による技術流出行為等の立証は非常に難しいと言われています。

メール等に履歴が残っていれば別ですが、物理的に相手にデータを渡したとなれば、それをいつ、どこで、誰に、どのように渡したのかを原告側が立証しなければいけません。

しかしながら、それはかなり難しいです。

とはいえ、このような「機密情報」も「商標」や「特許」等並んで重要な知的財産です。

困難とはいえ、「商標」「特許」同様、このような知的財産を守るためには相応の努力が必要なのだということでしょうか。

この裁判の推移もしっかり見守っていこうと思います。

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