社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

黒糖ドーナツ棒事件

2012年11月 5日

今回は、「黒糖ドーナツ棒」という商標に関する事件を紹介したいと思います。

まず事件の概要ですが、「黒糖ドーナツ棒」という商品名で、黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子を製造販売していた被告に対し、本事件の原告が「黒糖ドーナツ棒」という商標は無効であるとして、特許庁にこの商標を無効にすることを求める審判を請求したところ、特許庁がこれを退ける判断(審決)を下したことから、原告はこれを不服として知財高裁にこの審決の取り消しを求め、本訴を提訴したものです。

この事件の解説をする前に、商標法の規定の説明をしますと、以下の商標については商標登録要件を満たさず、商標登録はできませんし、仮に登録された場合にはその商標は無効(元々存在しないものとして扱われる)として特許庁により無効の審判が下されることになります。

①その商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
②その商品の品質、原材料、形状等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

但し、上記②については、長年の使用の結果、その商標が特定の会社等の業務に関する商標であることを取引業者または消費者が認識することができる場合には、例外的に商標登録を受けることができ、この場合、既に登録された商標は無効にはなりません(以下この要件を「特別顕著性」といいます)。

そして本件における原告の主張は要するに、
○「黒糖ドーナツ棒」という商標は、「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」という普通名称を普通に用いられる方法にて表示したにすぎないから、「黒糖ドーナツ棒」という商標に自社商品と他社商品とを識別する機能はなく、商標として登録される要件を備えていない(つまり上記①の要件を満たしていない)、
○また「黒糖ドーナツ棒」の商標は長年の使用の結果、特別顕著性を獲得したことの立証はなく、この点からもこの商標は無効とされるべきである、
というものです。

これに対し、知財高裁は、原告の主張を退け、特許庁の審決を支持する判決を言い渡しました。

裁判所は原告の主張である「普通名称を普通に用いられる方法で表示したにすぎない」という主張については、黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子について「黒糖ドーナツ棒」という普通名称は存在せず、また普通に用いられる方法で表示されているとも認められないとしました(つまり上記①の要件は満たしていないと判断しました)。

一方で、この商標は「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」の品質、原材料及び形状を普通に用いられる方法で表示したものと認めました(つまり上記②の要件は満たしていると判断しました)。

しかしながら裁判所は、被告が平成6年秋頃から平成19年に至るまでの約13年間、この商標を使用し続けきたこと、被告がこの商品に費やした広告宣伝費(1年間で8,923万円)やその広報活動、生産量(1年間で3414万本)、売上高(1年間で約7億円)を認定し、かつ「黒糖を使用した棒状形のドーナツ菓子」について、「黒棒」や「黒糖ケーキドーナツ」、「ミニ黒糖ドーナツ」等商品名は存在するが、被告のように「黒糖」「ドーナツ」「棒」を組み合わせたものは他に存在せず、むしろ外観及び称呼(呼び方)を異にするものしか認められないとして、

「黒糖ドーナツ棒」という商標は、被告により使用された結果、取引業者又は消費者が被告の業務に関する商品であることを認識することができるようになった(つまり上記で説明した「特別顕著性」を獲得した)として、特許庁の判断に誤りはないとしたのです。

ところで、この「黒糖ドーナツ棒」という商標ですが、「黒糖」「ドーナツ」「棒」という普通名称を単に組み合わせただけではないかとも思えますし、知財高裁も判断したように、その商品の品質、原材料、形状を組み合わせただけで、特定の会社の商品名としてはとても考えられないようにも思えます。

しかしながら、その使用期間や使用地域、その商品の生産高や売上高、この商標とよく似た商品名が類似製品に使用されていないかどうかによって、上記のような商標でも特定の会社の商品名と認識され、登録商標として認められる場合があると判断したのです。

この判決は、たとえ識別力の弱い商標でも、商標権者の努力によって、これが守られることを示すものとして評価できる判決だと思います。

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