社内弁護士森田の訴訟奮戦記ブログ

このブログでは、大幸薬品の社内弁護士である森田が、「セイロガン糖衣A」ブランドを守るために行っている活動やブランドへの「思い」をお届けします。

個人のスキルは営業秘密?

2012年8月14日

今回は、従業員が勤務する過程で習得した知識・経験が「営業上の秘密」にあたるかどうかについて判断した裁判例を紹介したいと思います。


ある従業員が勤務する過程で習得したワード・エクセル等の技能や業務上の知識は、「営業上の秘密」として、転職先等で利用することは制限されることになるのでしょうか。


古い裁判例になるのですが、この点について判断した裁判があります。


事件の概要ですが、ある従業員(X)が10年勤務した会社(Y社)を退職した際、Xが重要機密技術に携わっていたことから、Y社は、退職後2年間、Y社と競業関係にある一切の企業に直接・間接に関係しないことを内容とする特約をXと締結しました。


しかしながら、Xが退職後まもなくして、Y社と競業関係にある会社(Z社)の取締役に就任し、Y社と競業する製品の製造販売を行ったことから、Y社はXに対し、Xと締結した特約に基づき、上記製造販売を禁止する旨の仮処分を求めたものです。


このY社の請求に対し、裁判所は大要、以下の通り判断し、Y社の請求を認めました。


「被用者が他の使用者のもとにあっても同様に習得できる一般的知識・技能を獲得したにとどまる場合には、それらは被用者の一種の主観的財産であってそのような知識・技能は被用者は雇用終了後これを活用して差し支えない。


しかしながら、当該使用者のみが有する特殊な知識は、使用者にとっては一種の客観的財産として、いわゆる「営業上の秘密」として保護されるであり、そのため一定の範囲において被用者の競業を禁ずる特約を結ぶことは十分合理性があるものというべきである。」


つまり簡単にいえば、被用者がどの会社に勤めても習得できる「一般的な知識・技能」は営業上の秘密ではないが、「当該使用者のみが持つ特殊な知識」は「営業上の秘密」として保護されると判断したのです。


冒頭述べたワード・エクセルなどの技能やどの会社でも学ぶであろうビジネスマナー等の一般的なビジネスの知識は「一般的な知識・技能」に当たると思います。


それでは「営業上の秘密」として保護される「当該使用者のみが持つ特殊な知識」とは何のことを意味するのでしょうか。


この事件で裁判所は、この「特殊な知識」の具体例として、「顧客等の人的関係、製品製造上の材料、製法等に関する技術的秘密」を挙げています。


これらは「営業上の秘密」として非常にイメージしやすいと思いますが、例えば必ずしも一般的とはいえない、「総務担当が経験により習得した株主総会業務に関する知識」や「法務担当が経験により取得した契約書チェックに関する知識」、「経理担当が経験により取得した経理財務に関する高度な知識」等は「特殊な知識」に該当しないのでしょうか。


確かにこれらの知識は当該被用者にとっては「特殊な知識」かもしれませんが、勤務先である会社にとっては「特殊な知識」ではないのかもしれません。


しかしながら、上記知識が他の会社ではなかなか習得できない知識で、かつその会社が独自にマニュアル化しているのであれば、その知識は「当該使用者のみが持つ特殊な知識」になるかもしれません。


他方で、他の会社ではなかなか習得できない知識ではあるものの、かといって会社が独自にマニュアル化していない、ないしはできないような知識は「当該使用者のみが持つ特殊な知識」になるのでしょうか。


これについては非常に悩ましいところです。


皆さんも、自分が仕事により得た知識・技能が「一般的な知識・技能」なのか、その会社のみが持つ「特殊な知識」なのか、一度考えて見られてはいかがでしょうか。

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